その後、検察は事件の経緯を説明した。

検察官:
「一方的に好意を抱いた長女に交際を断られて怒りを募らせ、精神的・肉体的に痛めつけるため全く関係のない家族を皆殺しにしようとした」

この時被告は両耳をふさぎ、席に座っていた。

一方で、弁護側は被告が複雑な環境で育ったと指摘した。


実父が窃盗事件で逮捕されたことで両親が離婚。母親は再婚したが、相手に殴られるなど暴行を受けていた場面を目撃し、自身も母親から虐待を受けていたという。また、学校でもいじめにあっていたことなどを説明すると被告は涙を流した。

しかし、この日は一言も発することはなかった。

【 ーすべて僕の逆恨みー 出頭時に持っていた物】
被告は事件について、どう思っているのか。わからないまま迎えた裁判10日目(11月10日)。

この日、検察側は事件当日の状況を詳細に明らかにした。

住宅に侵入した被告は一階で寝ていた夫婦に刃渡り約18cmのナタで複数回攻撃した後、果物ナイフを逆手に持ち何度も突き刺したと説明。

さらに、物音や叫び声に気付き2階から降りてきた次女には使用していたナタを頭部に叩きつけたと指摘した。
そして当日購入したライターオイルやガスボンベを使って被告が住宅に火をつけたとした。

更に、検察側が証拠品を提出した。

被告が出頭した駐在所

それは被告が駐在所に出頭時に携えていた手紙だった。

手紙は夫婦の長女、母親、実父、祖母、アルバイト先の社長、警察官宛ての6通。

・長女への手紙
〈すべて僕の逆恨みです。何も悪くないのに一生消えない心の傷を負わせてしまい申し訳ございませんでした。死んで償いたいと思います〉

・母親への手紙
〈取り返しのつかないことをしてしまった。ここまで育ててくれて、ありがとう。本当にごめんなさい〉

・警察官への手紙
〈飲食をとらずに死のうと思いますが、覚悟ができれば、ほかの方法で死のうと思います。もし死ぬ前に見つけた時には死刑にしてください

ほかの手紙にも謝罪の言葉やこれまでの感謝が記されていた。

「僕の逆恨み」と事件を後悔しているかのような手紙は、裁判を通して初めて、被告の心情を知る手がかりに思えた。

だが、傍聴した記者が感じた「手紙」の意味合いは、この後、大きく揺らぐことになる。
それも、被告自身の証言によって。