◆ASEANは岸田首相の窮地を見透かしている
ただし、懸念も生まれてくる。私が指摘したいのは、南シナ海における、これら国々の領有権争いに日本も巻き込まれる危険性だ。日本が一歩踏み出す、すなわち軍事的な関与を深めることによって。中国はそう見做すだろう。
ASEANの国々は、したたかだ。アメリカや日本と接近する一方で、中国は大切な貿易相手国、また自分の国へ投資をしてくれる相手国でもある。中国を敬遠して日本にだけ肩入れしない。ASEAN10か国もそれぞれ国情が違い、中国との距離も違う。共通しているのは、アメリカを選ぶのか、中国を選ぶのか、という二者択一を嫌うことだ。
さらには、日本の国内政治もよく観察している。岸田政権が弱体化して、自分たちASEANとの国々との外交で得点を稼ごうとしているのもわかっている。それが「ASEANは岸田首相の窮地を、見透かしている」と私が指摘している点だ。
フィリピンも防衛装備品だけでなく、最大の援助供与国であり、前のめりになっている日本を、うまく利用・活用しているようにも見える。
◆山ほど懸案事項がある日中で話し合う場を
ではいま、日本の外交で必要なことはなんだろうか? やはり、中国との対話をもっと進めてほしい。アメリカは中国と対峙しながら、このところ、対話が一気に進んでいる。米中間の高官レベル協議が活発化している。核を含む大量破壊兵器の問題、地球温暖化対策などなど多くの分野に及ぶ。
日本はどうだろうか? アメリカ・サンフランシスコでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議の場で、岸田首相と習近平主席は個別に会談するのか、その会談は突っ込んだ話し合いになるのか、形だけのものなのか――。日中2国間でも山ほど懸案事項があるのに、しっかり話し合う場をつくってほしい。
仲のいい周辺国や相手の付き合いは大事だが、安保協力への急速な傾斜は中国を刺激し、地域の不安定化を招く危険性もある。パワーゲームに巻き込まれてはいけない。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。














