なかなか支持率が上向かない岸田首相。先週末の調査ではむしろ、さらに下がってしまった。自身も自負する「外交の岸田」で面目躍如と行きたいところなのだろうが、そのことを「見透かされている」と厳しい指摘をするのは、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長だ。11月9日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でコメントした。

◆「見透かされている」総合経済対策

先週から今週にかけての岸田首相を振り返ってみよう。11月2日の記者会見で、総合経済対策を発表した後外遊に出発し、フィリピン、マレーシアそれぞれで首脳会談に臨んだ。私はこの内政と外交。共通しているキーワードは「見透かされている」ではないか? と思う。

まず、外遊前の総合経済対策だが、その中身は国民一人4万円の定額減税、住民税の非課税世帯への7万円給付などで規模は17兆円だ。岸田首相が「国民に還元する」という根拠である税の自然増収は、財務省が以前に試算した税収見積もりからの上振れしたから、というものに過ぎない。

実態は、巨額の財政赤字を出していることこそ問題だ。財源の多くは国債の発行、すなわち国の債務(借金)に頼る。国債残高は1千兆円を超え、先進国で最悪の水準だ。金利も上がっており、国債の利払い費に影響が及ぶ。その場しのぎで子や孫の世代に、負担を背負わせて本当にいいのだろうか。

岸田首相には、防衛増税など、増税イメージがある。だから「総選挙や内閣支持率を意識して人気取りに走った。そして減税に踏み切ったのだろう」と言われる。そんな腹の中を、与党内でも「見透かしている」と指摘されている。

さらに、外遊で訪問した相手国(フィリピン、マレーシア)から、窮地の岸田政権は「見透かされている」。首相の視線の先にある中国からも「見透かされている」。私は、そういうふうに受け取っている。

◆「ASEANに向けて一歩踏み出した」という歴史的意義

今年は日本とASEANが交流を開始して50周年だ。その節目を記念して12月、東京にASEANの10か国首脳を招待して特別首脳会議を開く。岸田首相のフィリピン、マレーシア訪問も、その事前準備とされている。

上川外務大臣も別途、ASEAN加盟国のベトナム、タイなどを回って来た。ただ、岸田首相のフィリピン、マレーシア歴訪は、ASEAN特別首脳会議への準備とは違う意味合いが濃い。特にフィリピンだ。

岸田首相は、フィリピンに対し、軍事用の沿岸監視レーダーの供与を決めた。日本政府は今年4月、同志国(=同じ志を持つ国)の軍を支援する枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を創設した。

これを初めて適用した相手がフィリピンであり、この枠組みで初めて供与するのが、この監視レーダーだ。約6億円という額は防衛装備品としてはびっくりする額ではないが、「ASEANに向けて一歩踏み出した」という歴史的意義を考えたい。

アメリカと連携をしつつ、覇権主義的な動きを強める中国への包囲網構築を図る――。そんな狙いに思える。「第一列島線」ということばを聞いたことがあるだろうか。中国が描く軍事防衛ラインのことで、東シナ海、南シナ海をぐるっと囲む形になっている。沖縄県の尖閣諸島もこの中に含んでいる。

中国はこの第一列島線の中にある島々を、東シナ海海域で日本と、南シナ海海域でフィリピンと争っている。そういう情勢の中で、日本とフィリピンが共に向き合う相手・中国への包囲網を形成しようとなる。

◆日本とフィリピンの関係は「準同盟国ランク」

日本は半世紀前のASEANとの交流スタートを含め、途上国への支援は非軍事部門が中心だった。だから、フィリピンへの偵察レーダー供与は、これまでの路線から大きく転換するものだ。また今回、自衛隊とフィリピン軍がスムーズに往来し合えるようにする協定(「円滑化協定」)の締結に向けた話し合いにも入ることが決まった。

日本とフィリピンの関係は、「準同盟国ランクに上がった」という指摘もある。死者が1万人を超えだパレスチナの混乱や泥沼のウクライナ紛争などで、国際ニュースはそちらへ目が行きがちだが、このレーダー供与も大ニュースだと思う。

日本はアメリカと同盟関係にある。一方のフィリピンもアメリカと同盟国の関係。そのアメリカも、この海域における中国の海洋進出「力による一方的な現状変更の試み」を強く警戒している。

「アメリカを頂点に、三角形をつくる。日本とフィリピンが準同盟として、アメリカの安保政策を下から支える」――。そんな構図が見えてくる。フィリピンは、南シナ海で中国と対峙することもあって、マルコス大統領がアメリカに接近。その延長線上に日本との協力も進めているように思える。