「秘境」という言葉を広辞苑で調べると、「人跡のまれな、様子がよく知られていない土地」とあります。世界遺産にも秘境はたくさんあるのですが、番組でそのランキングを試みました。「人跡未踏度」、「撮影許可を得る難しさ」、「到達までの時間」、「到達までの困難度」という4つの指標を設定し、5段階で評価。その総合点でランキングをしてみたのです。
「死の世界」だった海底噴火で生まれた島 生態系の変化を観察できる地に

たとえばアイスランドに「スルツエイ」という自然遺産があります。ここは1963年に海底火山の噴火によって生まれた、北大西洋の小さな無人島。溶岩しかない火山島にどのように植物が根付き、動物がやってくるのか・・・火山島誕生からの生態系の変化を観察することができる極めて貴重なところです。自然の変化に影響を与えないようにするため、基本的に研究者しか立ち入りを許可されていません。そのため「人跡未踏度」は満点の5点、「撮影許可を得る難しさ」は3点としました。島への移動はヘリコプターで1時間ほどなので、「到達までの時間」は1点という具合です。

このスルツエイ島の撮影は2012年に行ったのですが、この年に法律が改正されて、研究者以外でも特別な許可を得れば島に上陸できるようになったのです。島に向かう前、撮影スタッフは衣服や機材などを徹底的に掃除し、植物の種子や虫の卵など「スルツエイにはまだ存在していない生命」を持ち込まないように求められました。

スルツエイ島が誕生したとき、地表は1000℃以上で、生命など存在のしようがない「死の世界」でした。そこに風や海流に乗って種子が運ばれ、少しずつ植物が根付き始めます。島の誕生から2年後に、初めて砂地で植物が確認され、7年後の1970年にはカモメが巣作りを始めたのです。番組が撮影したのは誕生から約50年後ですが、いまだ大地は噴煙が吹き出し熱を帯びていました。そんな環境でも、乾燥や潮風に強いハマハコベという植物が群生し、溶岩の穴の中のあるフルマカモメの巣を撮影することができました。このようにスルツエイは生態系の変化を観察できる「自然の実験室」、番組の秘境ランキングでもベスト8に入りました。