今年の東日本実業団駅伝は“新人”に注目が集まる。
東日本実業団駅伝は11月3日、埼玉県庁をスタートし、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場にフィニッシュする7区間76.9kmで行われる。上位12チームが来年元旦のニューイヤー駅伝出場権を得る。それに加え今年は13位以下のチームでも、10月15日に行われたMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)と開催時期が近いため、MGC出場資格選手を擁するチームは完走を条件にニューイヤー駅伝出場資格を得られる。
Hondaは箱根駅伝史上最速ランナーのY.ヴィンセント(22)と丹所健(22)の新人2人を2、3区の前半区間に起用。ロジスティード(旧日立物流)も藤本珠輝(22)ら新人3人を1、3、4区と前半に投入してきた。GMOインターネットグループは2区にP.ムルワ(21)、3区に岸本大紀(23)、5区に嶋津雄大(23)と新卒3人に加え、旭化成から移籍してきた小野知大(24)も4区に起用。
3区に丹所、岸本、藤本と大物新人が揃うが、そこに中山雄太(22、JR東日本)も加わる。中山は箱根駅伝出場のない日本薬科大出身で、10000mは3年時に28分07秒33と学生トップレベルの記録を出した選手。関東学生連合チームの一員として出場した22年箱根駅伝では、オープン参加だが1区で区間7位相当のタイムで走った。
“新人”たちの走りが上位候補チームの成績を左右する。
社名変更のロジスティードは1、3、4区に新卒3選手
ニューイヤー駅伝2連勝中のHondaが、東京国際大出身の2人を前半区間に起用。小川智監督は「実業団のレースでどこまで通用するかを見たい。3区終了時点でトップに近いところにはいたい」と新人選手への期待を話した。
ロジスティードも1区に富田峻平(23)、3区に藤本、4区に四釜峻佑(22)と新人3人を起用してきた。富田は明大出身で今年1月の箱根駅伝1区区間賞選手。「慎重派なので中間区間だと抑えすぎたりするかもしれないが、1区なら力を発揮する」と別府健至監督。
3区の藤本は日体大のエース区間を走ってきた選手で、「良いエンジンを持っている。ケガなく練習を継続できれば大きく成長する」と期待して最長区間に抜擢した。4区の四釜は順大で箱根駅伝の山登りや、全日本大学駅伝最長区間の8区を区間上位で走ってきた。「淡々と走るのが特徴でアンカー向きの選手ですが、今回はチーム状態も見て、あえて前半区間を経験させます。夏もパーフェクトに練習できた」。
前半に新人選手が固まったのは、「状態の良い選手を使う方針でメンバーを組んで、蓋を開けてみたらそうなった」と別府監督。「計算できない部分もありますが、どちらに転んでも今後につながる」。
目標は昨年と同じ3位。「3位以内は簡単ではありませんが、明日は暑いので出遅れたら追いつきにくい。出遅れないように前でレースを進めたい」。失敗も許されるが、新人3人への期待は大きい。
昨年までの日立物流から、今年4月にロジスティードに変わった。有望新人が多数入社し、「チームも大きく変えていきたい」と別府監督。「5年くらいでニューイヤー駅伝優勝」を目指す。
GMOインターネットグループは2~5区に新卒3選手と移籍の小野
GMOインターネットグループの亀鷹律良監督は「6位が目標。ニューイヤー駅伝にピークを合わせるため、今回はペースも設定している」と話した。練習も通常通りに行い、練習量を少なくするなど、東日本予選に向けて調整はしていない。その状況でも「岸本、嶋津、小野の3人の走りに注目している」と亀鷹監督は言う。
3区の岸本は青山学院大出身。20年箱根駅伝で1年生ながらエース区間の2区に抜擢され、区間5位だったがトップに立ち優勝に貢献した。その後は故障に苦しんだが3年時は箱根駅伝7区区間賞でチームは優勝。4年時の箱根駅伝は9区区間賞でチームは3位。「駅伝でスイッチが入ったときはスゴい走りをしてくれる」と亀鷹監督は期待する。
5区の嶋津は創価大出身で、箱根駅伝では20年10区区間賞、21年4区区間2位、22年4区区間賞、23年4区区間8位と活躍。21年は4区の嶋津でトップに立った創価大は最終10区の途中までトップを快走し、駒澤大に抜かれはしたが過去最高の2位に入った。「嶋津はトラックのタイムは良くありませんが、走ったレース(複数組ある大会で出場した組)で1位か2位でフィニッシュしています。今年のテーマである勝負強さを出している」(亀鷹監督)
4区の小野は高校卒業後に名門の旭化成に入社し、6年目の今年、移籍してきた。ニューイヤー駅伝は20年6区区間賞でトップに立ち、チームの優勝に貢献。21年大会は6区区間3位でチームも3位、22年は5区区間賞でチームは3位。今年は5区区間10位でチームは16位。「トラックシーズンは故障が多い選手ですが、今年は故障なく練習が積めています」(亀鷹監督)。
創価大出身のムルワはヴィンセントほどの活躍はないが、昨年の出雲全日本大学選抜駅伝3区では世界陸上10000m代表の田澤廉(22、トヨタ自動車。当時駒澤大4年)に14秒差で区間賞を獲得した。ロードでの安定した強さが特徴だが、スピードも兼ね備えている。
GMOインターネットグループは前回のニューイヤー駅伝3区区間2位の大迫傑(32)、4区区間6位の吉田祐也(26)、5区区間3位の今江勇人(25)は今回起用しない。1区区間賞だった村山紘太(30)も7区に回った。
今回のオーダーで6位以内を確保すれば、ニューイヤー駅伝での優勝が見えてくる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真はGMOインターネットグループ岸本選手