ニューイヤー駅伝2連勝中のHondaにまた、注目ランナーが誕生しようとしている。
東日本実業団駅伝は11月3日、埼玉県庁をスタートし、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場にフィニッシュする7区間76.9kmで行われる。上位12チームが来年元旦ニューイヤー駅伝出場権を得る。それに加え今年は13位以下のチームでも、10月15日に行われたMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)と開催時期が近いため、MGC出場資格選手を擁するチームは完走を条件にニューイヤー駅伝出場資格を得られる。
Hondaは今、最も充実している長距離チームだ。伊藤達彦(25)が10000mで、青木涼真(26)が3000m障害で日本代表に育ち、MGCで小山直城(27)が優勝してパリ五輪代表入り。
そこに今季、箱根駅伝2・3・4区の区間記録保持者のY.ヴィンセント(22、東京国際大出身)が加入した。Hondaの課題だったインターナショナル区間で、ヴィンセントがどんな走りを見せるのだろうか。

箱根駅伝3区区間記録はハーフマラソン換算で世界歴代18位相当

箱根駅伝で見せたスピードは世界レベルだった(山下り区間の6区は除外)。ヴィンセントがマークした区間記録と、その記録をハーフマラソン(21.0975km)に換算したタイムは以下の通り。

20年 3区21.4km 59分25秒
換算タイム:58分35秒

21年 2区23.1km 1時間05分49秒
換算タイム:1時間00分07秒

23年 4区20.9km 1時間00分00秒
換算タイム:1時間00分35秒

ハーフマラソンの世界歴代リストに当てはめれば、3区のタイムは歴代18位に相当する。区間歴代2位には1分30秒も差をつける突出したタイムだ。2区と4区はハーフマラソンの日本記録(1時間00分00秒)よりも遅いスピードだが、両区間とも上りが多いコースである。
Hondaはここ数年、インターナショナル区間の外国人選手が、トラックの実績はあるのに駅伝になると走れないことが多かった。18年の区間9位を最後に、ニューイヤー駅伝のインターナショナル区間(23年大会までは2区8.3km)は以下のように低迷した。

19年・区間18位(チーム24位)
20年・区間31位(チーム3位)
21年・区間15位(チーム5位)
22年・区間24位(チーム1位)
23年・区間12位(チーム1位)

インターナショナル区間のマイナスを、他の区間で取り返すことはできる。だが少しでも前でタスキを受け取ることで、続く走者の走りが変わってくるのも事実だ。どちらも駅伝では起きる事象である。

インターナショナル区間の走りが少しでも良くなれば、Hondaのニューイヤー駅伝
3連勝の可能性がそれだけ大きくなる。東日本実業団駅伝のヴィンセントの走りが、重要な意味を持つ。

実業団選手として地に足を付けて


Honda入社後のヴィンセントは5000mで13分13秒22と自己新記録をマークしたが、10000mは自己記録(27分24秒42)を更新していない。5000mで12分台、10000mで26分台の記録を持つ実業団の外国人選手もいる。トラックの世界レベルは、箱根駅伝の区間新よりも上のレベルなのだ。

Hondaの今堀将司コーチも、世間の期待値が大きくなりすぎていると感じている。

「箱根駅伝のインパクトが強すぎて、実業団駅伝でもとんでもない走りをするんじゃないか、と思われていますが、実力通り、地に足が付いた走りをしてくれたら、と思っています。東日本実業団駅伝も具体的な目標タイムは設定していません。他チームの外国人選手たちに渡り合えたらいいですね」

Hondaのように日本選手のレベルが高いチームでは、爆発的な走りよりも確実な走りがチームにプラスに働く。ヴィンセントはその走りが期待できる選手で、どんなレースでも大きく外すことはない。それができるのは真摯に練習に取り組んでいるからだろう。今堀コーチも「練習を立てたらやり抜きますし、足りないと思ったら自分でプラスして行っています」と競技姿勢を評価する。

トラックでは普通の選手かもしれないが、ヴィンセントはトラックよりもロードで強さを発揮する。

「体が大きいためか(集団で走る)トラックでは少し窮屈そうな走り方になってしまいますが、ロードではのびのび、ダイナミックな走りになります」(今堀コーチ)

実業団駅伝に取り組むことでスピードアップも期待できる。

「大学の時は箱根駅伝の距離に合わせた練習でしたが、今はスピードやスピード持久力を高めるメニューも多くなっています」

東京国際大監督としてヴィンセントの4年間を指導した大志田秀次氏が、今年からHondaのスタッフに加わった。練習の継続性も考慮しながら、実業団駅伝の距離に合わせたり、世界を狙うための練習を的確に行うことができている。Hondaで駅伝を走ることで、爆発的な走りをする可能性もゼロではない。
ヴィンセントの箱根駅伝とは違った走りが、東日本実業団駅伝で見られそうだ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)