「ずっと同じペースで進むより変化があった方が走りやすい」(岡本)

――どんな目標でMGCを走りますか。
岡本:
最後のチャンスだと思って走ろうと思っています。できれば今日みたいな晴れの天候の方がチャンスはあるかな、と思っていましたが、どうやら結構な雨が降る予報なので。ちょっと苦手としています。

――4年前のMGCも走っています。ペースメーカー不在のレースで、代わる代わる誰かが前に出て、小刻みにペースの上下動がある展開が今回も予想されます。
岡本:
今回もそれを望んでいます。やっぱり、そういったレース経験があることで有利になると思っています。そのつもりで練習もしてきました。

――練習に変化走を取り入れて?
岡本:
はい、そうです。ずっと同じペースで淡々と進むより、変化があった方が走りやすいと思っています。

――同じ39歳の今井選手と一緒のレースで、五輪代表をかけて戦いますが?
岡本:
やっぱり勝ちたいですね。最年長、同じ年齢ということで意識します。そして五輪代表を取りたいですね。実現したら来年40歳でパリ五輪を迎えますが、この年齢で夢を追いかけられる、夢を実現させられることを見せたいと思っています。

――39歳まで続けて来られた理由はなんでしょうか。
岡本:
やはり周りのみんなの支えがあったからだと思います。昔は自分の記録などを目標にやっていましたが、それだけではもうやっていけないと感じました。年齢を重ねてくると若い頃には見えなかったものが見えてきて、それに恩返しをする形でこの数年やってきています。

岡本選手

37歳で復活した今井 “山の神”を超えるMGCに

今井は順天堂大2~4年時に箱根駅伝山登り区間の5区で連続区間賞を取り、“山の神”と言われた選手。だが、そう呼ばれることにずっと抵抗があった。自分にはまだ、その知名度に見合っただけの力がないと感じていたのだ。実業団入り後は“山の神”超えを、五輪出場などマラソンで活躍することで達成しようとした。

しかしマラソン転向に時間がかかった。ニューイヤー駅伝のエース区間で区間賞を取っても、今井は納得しなかった。
そしてやっと力を発揮し始めたのが13~15年。日本人トップを続け、15年世界陸上マラソンの代表にも選ばれた。今井が「力でねじ伏せる時代」と話したのはその頃を指す。

だがその世界陸上は髄膜炎に罹り出場することができなかった。
その後はずっと2時間10分すら切ることができず、前回のMGCも25位と敗れた。
21年2月に、1年後の大阪・びわ湖統合マラソンで結果が出なかったら引退すると決意。そして22年2月の同大会で2時間08分12秒の6位と復活した。
37歳で自己2番目の記録で走破できた理由を、8月末のTBSの取材で今井は以下のように話していた。

「パフォーマンスは年齢には関係ありません。しかしスタートラインに立つために、今必要なこと、必要じゃないことをしっかり見極められるようにはなっている。若いときは何もしなくても走れる、みたいな期間がありましたけど、今は自分で睡眠も食事も含めて全てを考える、整えることによって同じパフォーマンスも出せるようになる。練習でも同じようなパフォーマンスを出しています。いろいろ考えることも楽しい時間になっていますね。この年齢でも、陸上競技をすごく味わってできていると思っています」

また、“山の神”と言われ続けていることについても、同じTBS取材時に次のように話している。

「“山の神”と言われた頃の自分よりも力はついているんですけど、世間の方のイメージはそれを超えていない。それは本当に“山の神”を超えたことではない、と思っています。それがモチベーションというか、頑張る源になっていますね。“山の神”を超えられないことが悪いことではなく、それを力にして、まだまだやっていきたいなと思っています」

今井はマラソンの五輪出場で“山の神”超えを成し遂げようとした。それが達成できていないことが、今も走り続けている理由の1つではないだろうか。

昨年の大阪・びわ湖マラソンでは、岡本が今井より8秒先にフィニッシュしていた。岡本は自己新だった。

今井がフィニッシュすると2人はお互いに歩み寄り、強く抱き合った。そこまでの具体的なプロセスも話し合っていたのかもしれないが、お互いがどういった心情でそこにいるのか、瞬時にわかり合えた。

MGCで39歳の岡本と今井の同じようなシーンが再現されれば、世間も“山の神”以上の何かを今井から感じ取るはずだ。

■MGCとは?
マラソンの五輪代表は16年リオ五輪までは複数の選考会で3人の代表を選んできたが、条件の異なるレースの成績を比べるため異論が出ることも多かった。そこで東京五輪から、男女とも上位2選手は自動的に代表に決まるMGCが創設された。MGCに出場するためには所定の成績を出す必要があり、一発屋的な選手では代表になれない。選手強化にもつながる選考システムだ。
五輪代表3枠目はMGCファイナルチャレンジ(男子は12月の福岡国際、来年2月の大阪、3月の東京の3レース)で設定記録の2時間05分50秒以内のタイムを出した記録最上位選手が選ばれる。設定記録を破る選手が現れない場合は、MGCの3位選手が代表入りする。大半の選手は絶対に代表を決めるつもりでを走るため、一発勝負の緊迫感に満ちたレース展開が期待できる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)