自信を持ってスタートラインに立った世界陸上オレゴン

 22年7月の世界陸上オレゴンに向けてのトレーニングも、そのときやれることは完全にやった。「自信を持ってスタートラインに立てた」という。
 しかし…。

「自信を持ってスタートラインに立ったにもかかわらず、レースが動いた31km地点で離されてしまって、勝負にならなかった。レース中にここで動くだろうと、ある程度予測ができていたのに対処できなかった。それが本当に悔しくて」

 しかし何をしなければならないか、問題点は明確になった。

「ベースの上げ下げだったり、雰囲気だったり、そこに向かうまでの過程は自分の中でも大きな経験になりました。これは次に生かさないといけないっていう部分もありました。自分の目指すところ、目指すレベルが上がったという意味では、充実感もあった世界陸上でした」

 “次”とはMGCのこと。オレゴンから1年3カ月後。普通に考えれば最低でも1本はマラソンを入れる間隔だ。西山はその間、マラソンを走らずにMGCに向けてトレーニングを積んだ。

「MGCは勝つことしか考えていません」

 長くトレーニング期間を設けた目的は、オレゴンで経験したペースの上げ下げに対応するスピードをつけることだった。しかし今年の前半は肋骨の神経痛やマメの痛みがあり、レベルの高い練習が続けられなかった。それでも西山は「そういったことも含め、良い経験ができた」と前向きにとらえている。

「トレーニング自体は別大より世界陸上、世界陸上より今回のMGCの方ができています。体の仕上がりも世界陸上より断然良い」と言い切った。

 先輩2人に触発され、自身を変革した前回MGCから4年。優勝候補の1人に挙げられるレベルまで、自身を引き上げることができた。昨年末の取材になるが、MGCへの決意を次のように話した。

「陸上人生ということで考えても、自分は今、パリ五輪しか見ていません。パリ五輪後に自分が何をするか、どういった気持ちになっているか、自分自身でも想像できないんです。そこに出るためのMGCですからもう、勝つことしか考えていません」

 出場はしていなかったが、自身を変えてくれたMGCから4年。2度目のMGCは、西山の競技人生にとってさらに大きな意味を持つ。

■MGCとは?

 マラソンの五輪代表は16年リオ五輪までは複数の選考会で3人の代表を選んできたが、条件の異なるレースの成績を比べるため異論が出ることも多かった。そこで東京五輪から、男女とも上位2選手は自動的に代表に決まるMGCが創設された。MGCに出場するためには所定の成績を出す必要があり、一発屋的な選手では代表になれない。選手強化にもつながる選考システムだ。

 五輪代表3枠目はMGCファイナルチャレンジ(男子は12月の福岡国際、来年2月の大阪、3月の東京の3レース)で設定記録の2時間05分50秒以内のタイムを出した記録最上位選手が選ばれる。設定記録を破る選手が現れない場合は、MGCの3位選手が代表入りする。大半の選手は絶対に代表を決めるつもりでMGCを走るため、一発勝負の緊迫感に満ちたレース展開が期待できる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)