“笑わない男”が笑顔を見せるときは?
佐藤拳は200mを走る機会が少なかったこともあり、200mの自己記録は20秒93だった。全日本実業団陸上では「20秒70では遅すぎます」と、大幅な自己新にも笑顔を見せなかった。
「とにかく前半の100mが遅すぎます。(自己新記録は)後半の100mでなんとかまとまったからですが、世界の400mには19秒台を持っている選手もいます」
ブダペストの日本記録の走りも、帰国して動画を分析した結果、反省点が多く出てきた。
「スタートで浮いてしまって加速に上手く乗れませんでした。スピードに完全に乗れないまま走ってしまったんです。最後の100mも体幹部の筋力不足で腕振りが横にブレて、上体が浮いていました。200~300mの走りだけで出た日本記録でしたね」
来季に向けてやることは山積みだという。
「100mのスプリントを上げることと、前半の200mを楽に走ることを両立させないといけません。そのためには筋量も増やさないといけないので、すぐにでもウェイトトレーニングを始めて、冬期に走り込んで、その結果が来年現れます」
全日本実業団陸上でも反省と課題ばかりを話し続けた。佐藤拳はブダペストで日本記録を出したときも、ニコリともしなかった。陸上界の“笑わない男”という声も出始めている。
「今シーズンは納得できない走りしかなかったので、笑うっていうのも…。唯一良かったと思えるのがアジア選手権の決勝で、自分の中でそのときやりたいことはできたと思えたんです。バンコクでは風雅君と一緒に笑っていました」
杭州でも走り終わったダブル佐藤が、一緒に笑顔になるシーンを見たい。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は左が佐藤拳太郎選手、右が佐藤風雅選手