男子100mは17歳のブーンソンが台風の目になるか

男子100mは陸上競技初日に予選が終了。2日目に準決勝と決勝が行われるが、混戦の様相を呈している。

予選は5組が行われ各組4着までと、5着以下の記録上位4人が準決勝に進む。出場した選手の半分以上が次のラウンドに進む大会だ。各組の風もほとんど変わらず、上位通過した選手に大きなタイム差はつかなかった。

それでも4組1位通過した謝震業(30、中国)が10秒07(-0.2)と、ただひとり10秒0台をマーク。200mのアジア記録(19秒88)保持者だが、今大会は100mに絞ってエントリーしている(200mの中国選手のエントリーが1人なので、謝が100m後の状態を見て出場する可能性も)。準決勝を見てみないとわからないが、現時点では優勝候補の一番手か。

4組で謝に続いたP.ブーンソン(17、タイ)が10秒13(-0.2)で全体2位。昨年10秒09(+0.7)のU18アジア記録で走った新星だ。17歳という年齢を考えると、準決勝、決勝でどんな成長を見せるか予想がつかない。

予想外の好走を見せたのが、桐生祥秀(27、日本生命)と同じ1組で3位に入ったジョ クムリョン(24、北朝鮮)だ。スタートリストの自己記録が9秒90と記載されていて話題になったが、世界陸連サイトに手動計時の9秒9とデータがあった。風の情報もなく、前回のアジア大会は10秒76(±0)で予選落ちだった選手。

18年には19歳だった。記録を上げてくることは予想できたが、桐生に迫る走りで10秒28(-0.2)を出したことには正直、驚かされた。新型コロナの感染拡大もあり、北朝鮮は国際大会にはまったく参加してこなかった。予選で国際大会の雰囲気に慣れれば、準決勝、決勝で大きく記録を伸ばしてくるかもしれない。

日本の2人も悪くなかった。
1組2位の桐生は終盤は脱力したが、中盤は躍動感のある走りでトップに立った。スタートも悪くなかったし、準決勝以降で「トップスピードはもっと上がる」と手応えも感じられた。謝と並ぶ金メダル候補だろう。中盤のトップスピードの速さに注目したい。

小池祐貴(28、住友電工)は10秒27(-0.2)で2組1位。2位につけた0.09秒差は5組中2番目に大きかった。後半は強いな、と思わせる走りだった。

気象条件が良くなれば9秒9台後半は出るかもしれないが、蘇炳添(中国)が前回出した9秒92の大会記録までは難しいかもしれない。だが、200mのアジア記録保持者に17歳の新鋭、情報が少ない北朝鮮の選手と、面白いメンバーになる。前アジア記録(9秒91・+1.8)保持者のF.オグノデ(32・カタール)は、昨年、今年と目立った記録はないが、10秒24(-0.2)の5組2位で通過した。

そこに桐生、小池が加われば、男子100mはアジア最速を決めるにふさわしいレースになる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)