9月15日、国民民主党の元参院議員で、党の副代表も務めた矢田稚子氏の総理補佐官起用が閣議決定された。

矢田氏は高卒でパナソニックに入社し、パナ労組の幹部を経て、電機メーカーの労働組合でつくる「電機連合」の組織内議員として参院議員を1期務めた。労働組合出身の元野党議員が政府の要職に就くという極めて異例な事態に、連合内では動揺が広がる。岸田政権が目指す「野党の分断」は着実に進みつつある。

電機連合幹部の憔悴 

9月13日午前9時半、東京・千代田区の連合本部。電機連合のトップ、神保政史・中央執行委員長が芳野友子・連合会長のもとに駆け込んだ。

「官邸からパナソニック本社に『政府の要職に矢田さんを起用したい』と打診があった。しかし、その要職が何か分からない」

矢田氏は去年の参院選で落選し、政界引退を表明したばかり。神保委員長と芳野会長は、それぞれ慰労のため矢田氏と会食もしたばかりだったが、寝耳に水だったという。

翌14日、連合本部では定例の中央執行委員会が行われることになっていて、続々と幹部が集まる。

「どうやら、総理補佐官らしい」
 
しかし連合としては確認が取れず、静観するしかなかった。

午後1時半、中央執行委員会が始まったが、出席者によれば、「みんな上の空」。異様な空気が支配する中、「総理補佐官に矢田氏起用を検討」の速報が流れる。出席者はスマートフォンでニュースを確認し、「うわー」という声も上がったという。

「電機連合さんからお話があるそうです」

委員会終了時、芳野会長が神保氏に発言を促すと、憔悴した様子の神保氏は、こう話すのが精一杯だった。

「いろいろ報道が出るかもしれませんが、ご承知おき下さい」