少年院に収容される少年が減少する一方、その中で親などから虐待を受けてきた少年たちの割合は年々増え続けています。何故彼らは非行に走ってしまったのか、心に傷を負った少年たちと更生に向けた取り組みを取材しました。

■少年院入所者の3分の1に虐待経験 「ベルトで叩かれたり・・・」

広島県東広島市にある広島少年院。窃盗や傷害などの罪を犯した少年たちが30人余り収容されている。
現在、少年院に収容される少年は全国的に減少している。一方で在院する少年のうち「親などから虐待を受けた」と答えた割合は年々、増加の一途を辿っている。

広島少年院でも在院している31人のうち10人に虐待経験がある。
中村信 首席専門官
「少年院に入ってくるというのは加害をしている行為なんですけれども、一方で被害者というところは当然感じるところが非常に多くて」

幼い頃、父親から虐待を受けてきたという少年に話を聞くことができた。

少年(19)
「家の中で盗み食いをやめなくて、お尻をベルトで叩かれたり、金具のところが当たったりとか。毎週とか殴られたりはあったし。山道、軽トラに乗せられて降ろされて、田舎で街灯とかもない真っ暗の状態で、山に捨てられそうになったり」

小学生の頃、両親が離婚。その後、父親に引き取られたが満足な食事も与えられず、次第に万引きや賽銭泥棒などの非行を繰り返すようになった。自ら命を絶とうとしたこともあったという。
少年(19)
「食べる物がないから、盗んで過ごすしかないなっていう考えというか、もう追い詰められたっていう部分もあります。首を吊ろうとしたことはあります。助けてくれる人がいないから、楽になりたいという部分が大きかったんじゃないかなと思いますね。心のどこかでやっぱり孤立というか一人が嫌だったのかなというのはあったりします」

これまで父親が面会に来たことは一度もない。親子関係は事実上、途絶えているという。

■「うまく育てられないのに子供なんか産むなよ」消えない“恨み”

午前7時、広島少年院の1日が始まる。厳しい規律のもと集団生活をするのが基本。私語は厳禁で、出身地や罪名など、個人情報を聞いたり話したりすることも禁止されている。お互いのことは苗字ぐらいしか知ることができない。

少年院は刑罰を科す場ではなく、あくまでも教育の場。社会生活に必要な力を身につける職業指導や学習指導をはじめ、薬物や暴力など個別の問題に特化した指導も行われている。

今回、その中にカメラが入ることが許された。行われていたのは、家族関係に問題を抱えた少年に向けた指導だ。

授業は事例に沿って進められる。この日は、親が仕事で忙しくなったことから、暴力団と繋がりのある男の家に入り浸り、非行を繰り返すようになった少年の問題について意見を出し合った。
教官「Aが犯罪とわかってるのに男に従う理由は何ですか?」
少年「楽しくない元通りの生活に戻るのが嫌だったからです」
少年「Aと男の間に深い絆ができた」
教官「絆なの?」
少年「親がしてくれなかったことを代わりにしてると思うし」

少年の心情についての意見が多く出る一方で、ひとりの少年から親の問題を指摘する声が。

D君
「Aがどうするかというよりは親が与えるべき家族の機能をちゃんと果たさないといけない。Aの話はほとんど聞いてくれないって書いてあるんでどうしようもないじゃないですか」

教官
「どうしようもないかな?」

D君
「学校から帰って親が帰ってくるまで起きて待ってまっせ、そこから相談しまっせ『忙しいんだよ』って言われて終わりじゃないですか」

その少年の個別面接が行われた。過去に親から虐待を受けていて、いまだに恨みが消えていないという。

教官
「親御さんは普通に考えれば自分より先に命を全うするわけじゃない、その時にどういう感情が浮かんでくるのかなって」

D君
「まあ全然どうでもいいと思うし、ざまあみろとも思うし、まだやることあるんじゃないかとも思うし。うまく育てられないのに子供なんか産むなよって思いますね。小学校の時とか殺されそうになってるんで湯船に沈められたりとか」

教官
「それは強く残ってるんだ?」

D君
「結構、もう今でも鮮明に思い出しますね」

少年は友人関係のトラブルから、相手に危害を加えようとした殺人未遂で少年院に入った。親への恨みを持つ一方で、危害を加えようとした相手に対しても一生許さないと、強い恨みを抱いていた。

田辺泰平 法務教官
「被害者(危害を加えようとした相手)に対する反省というよりも、自分をこういうふうにしたのは親だっていう思いが強いので、やっぱり毎日付き合って、だんだん柔らかくしていけたらいいなと思ってます」