世界陸上ブダペスト最終日(8月27日)はアジア勢の活躍が顕著だった。男子やり投ではN.チョプラ(25、インド)が88m17で優勝。2位にA.ナディーム(26、パキスタン)が続き、5位と6位にもインド選手が入った。男子4×400mリレーでもインドが5位に入賞。前日(大会8日目・8月26日)の予選では2分59秒05のアジア新記録をマークした。大会8日目の男子棒高跳でもE.J.オビエナ(27、フィリピン)が、アジアタイ記録の6m00をクリアして銀メダルを獲得。大会全期間を通じて活躍したアジア勢が多数活躍した。彼らは戦いの場を、アジア大会中国 杭州(陸上は9月29日~)に移していく。
インドが男子やり投で3人全員入賞の快挙
最終日は男子やり投入賞者の半数をアジア勢が占めた。チョプラ、ナディームの金銀メダリストに加え、K.ジェナ(27、インド)が5位に、D.P.マヌ(23、インド)が6位に入った。メダリスト2人は近年の世界大会で実績があるが(チョプラは東京五輪金メダリスト)、イェナとマヌは昨年以降に大きく記録を伸ばしてきた。男子やり投界の勢力図を塗り替えた、と言ってもいい大会になった。
「東京五輪の金メダルのあと、世界陸上で本当に勝ちたいと思っていたんだ(昨年の世界陸上オレゴンは銀メダル)」とチョプラ。そして「インド・チームにとって素晴らしいことだ」と3人入賞を誇った。
チョプラの自己記録は昨年マークした89m94(インド記録)。アジア選手で90m以上を投げているのは、91m36のアジア記録を持つ鄭兆村(29、台湾)と、自己記録90m18のナディームの2人。アジア大会では90mスローの応酬も期待できる。
女子やり投では北口榛花(25、JAL)が66m73で優勝。北口はアジア大会には出場しないが、アジア勢が男女やり投を制する記念すべき大会となった。
男子の棒高跳と4×400mリレー、女子400mハードルでアジア新
アジア記録が3種目で誕生した。男子4×400mリレー予選でインドが2分59秒05(1組2位)のアジア新(決勝は2分59秒92で5位)、棒高跳でオビエナが自身の持つアジア記録とタイの6m00(銀メダル)、女子400mハードルでK.アデコヤ(30、バーレーン)が53秒09のアジア新で4位に入った。
驚かされたのは男子4×400mリレーのインドである。昨年の世界陸上オレゴン大会で日本が出した2分59秒51を更新した。400mでは4人全員が45秒台の自己記録で、45秒00の参加標準記録を1人も切っていない。個人種目出場ゼロの国が、エリアレコードを出すなど常識的には考えられない。
対する日本は3人が400m準決勝に進出し、佐藤拳太郎(28、富士通)と佐藤風雅(27、ミズノ)の2人が44秒台をマークした。だが4×400mリレーはインドと同じ1組で3分00秒39の5位。直接対決で1.34秒差をつけられ予選落ちしてしまった。リレーの強化を通じて個人種目の記録を上げようとする取り組みは、4×100mリレーでは日本もやってきた。だがバトンパスの利得タイムがほとんどない4×400mリレーでは、個人の強化しか方法はない。もしかしたら、インドの選手は潜在能力が高く、今走れば44秒台を出せるのかもしれない。
日本はアジア大会の4×400mリレーに出場するか、確定していない。リレーよりもアジア選手権優勝者の佐藤拳と同2位の佐藤風に対し、インドのリレーメンバーが個人種目でどこまで迫るか。そこがアジア大会の見どころになる。
アジア勢3選手が入賞した男子走高跳
ブダペスト大会の男子走高跳では、アジア勢3人が入賞した。M・E・バーシム
(32、カタール)が2m33で銅メダル、ウ サンヒョク(27、韓国)が2m29で6位、赤松諒一(28、アワーズ)が2m25で8位。バーシムは2m43の世界歴代2位記録と、五輪&世界陸上の金メダルを4個持つ。レジェンドの域に近い選手だ。ウ サンヒョクは昨年の世界陸上オレゴン大会銀メダルの選手で、世界トップジャンパーに名を連ねる。
アジア大会日本代表には赤松と真野友博(27、九電工)が選ばれている。真野も昨年の世界陸上オレゴン8位入賞者で、日本勢2人がバーシムとウ サンヒョクに挑む。
バーシムの金メダルが有力だが、ウ サンヒョクは昨年ほど高いレベルで安定していない。2月のアジア室内選手権では2m28を跳んだ赤松が、2m24のウ サンヒョクを破っている。
昨年のオレゴンの赤松は初めての世界大会で、雰囲気に飲まれたところもあり、予選を突破できなかった。しかし今季はアジア室内と世界陸上で経験を積んだ。
「技術的なところもそうですけど、今回決勝進出することができて、この雰囲気には慣れることができました」
アジア大会では真野、赤松が、ウ サンヒョクと三つ巴の銀メダル争いを見せてくれるだろう。
男子跳躍と女子投てきの強力中国勢は、ブダペストではいまひとつ
跳躍種目では中国勢も男子3種目で入賞した。
男子棒高跳では黄博凱(26)が5m75の自己タイ記録で6位、走幅跳で王嘉男(27)が8m05(+0.2)で5位、三段跳では朱亜明(29)が17m15(-0.5)で4位、方耀廣(27)も17m01(-0.4)で6位に入った。
王は昨年の世界陸上オレゴン金メダリストで自己記録は8m47。朱は東京五輪銀メダリストで自己記録は17m57。方も東京五輪、世界陸上オレゴン、そしてブダペストと3大会連続で入賞している。自己記録は17m17だ。走幅跳&三段跳はアジア大会でも中国勢が強さを見せそうだ。
中国は女子投てきでも、4種目全てで入賞者を出した。
砲丸投は鞏立姣が19m69で銅メダル、円盤投は馮彬が68m20で銅メダル、ハンマー投は王崢が72m14で8位、やり投は劉詩穎が61m66で6位。
鞏は東京五輪金メダリストで自己記録は20m58、馮は昨年の世界陸上オレゴン金メダリストで自己記録は69m12、王は東京五輪と17年世界陸上ロンドン大会の銀メダリストで自己記録は77m68、そして劉も東京五輪金メダリストで自己記録は67m29。
男子跳躍と女子投てきの中国勢の戦績を見ると、地元開催のアジア大会に調子を合わせている可能性も否定できない。
ブダペストのアジア勢には、新記録、好記録を出した好調選手もいれば、自己記録を下回った不調選手もいた。どちらの選手も杭州でドラマを演じることになる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)