7月の世界陸上オレゴン代表選考会を兼ねた第106回日本選手権。大会3日目は6月11日、大阪市のヤンマースタジアム長居で行われる。世界陸上参加標準記録突破選手が決勝種目に登場するのは男子400mハードル(16:40)と男子3000m障害(17:42)だ。400mハードルは黒川和樹(20・法大3年)、3000m障害は三浦龍司(20・順大3年)の20歳コンビが3位以内に入れば世界陸上代表に内定する。2人とも勝てば2連覇だ。また、東京五輪で決勝に進出した北口榛花(24・JAL)が、女子やり投決勝(15:35)で64m00の標準記録突破に挑戦する。


最終日の800m&5000mをどう戦うかを考えての判断に

1500m決勝

2日目の1500mに優勝して世界陸上代表を内定させた田中希実(22・豊田自動織機)は、3日目は800 m予選に出場する“予定”だ。予定と書いたのは、出場の最終決断は当日になるからだ。
状況は以下のようになっている。

最終日(4日目)に800 m決勝と5000m決勝が、スタート時間75分間隔で実施される。5000mはすでに標準記録(15分10秒00)を突破している。3位以内に入れば代表に内定するが、とにかくライバルの数が多い。東京五輪代表だった廣中璃梨佳(21・JP日本郵政グループ)と萩谷楓(21・エディオン)が今季好調で、2人に加え19年世界陸上ドーハ代表だった木村友香(27・資生堂)と佐藤早也伽(28・積水化学)も標準記録を破っている。廣中とともに10000m代表に内定した五島莉乃(24・資生堂)も、消耗している田中にとっては嫌なハイペースの展開に持ち込むタイプだ。

800 mの方は標準記録(1分59秒50)が日本記録より速く、田中といえども破るのは難しい。しかし世界ランキングで代表入りの可能性はある。世界ランキングを上げるには予選で少しでも良いタイムで走り、決勝は優勝かそれに近い順位で走る。だが800 mでそれを実行すると、強敵の多い5000mで先頭集団のハイペースに付くと終盤失速するリスクが生じる。

1500m決勝後にも次のように話していた。

「800 mの代表は(6月末まで)待たないといけない。5000mで権利を取ることを優先しないといけません」

不確定要素の大きい3種目の代表入りより、2種目目の代表となる5000mを優先したい気持ちが大きい。だが一方で、世界陸上で挑戦したい2種目を、800 mと1500mにしたい気持ちも強い。開幕前日の会見では「1500mと800 mという組み合わせも考えられる成績を今回の日本選手権で出せたら」と話している。

最終的には体の状態との相談になることが、状況を複雑にしている。ただ1500m後のコメントから、挑戦する方向に傾き始めているようにも感じられた。

「今後の体調を見て決めますが、今のところ痛いところはないので、最後まで攻めきる日本選手権にしたい。最後まで800 mも5000mも捨てない判断ができるようになれば」

この状況で大会3日目の800 m予選を田中が走る。今年の日本選手権屈指のチャレンジに注目したい。

黒川と三浦の“ペース配分”に注目

予選を走る黒川選手

400mハードルの黒川と3000m障害の三浦。2人の20歳が優勝する確率は高い。

400mハードルは黒川とともに東京五輪代表だった安部孝駿(30・ヤマダホールディングス)は欠場し、山内大夢(22・東邦銀行)は予選で敗退した。
予選の黒川は49秒81で、ただ1人49秒台を出して通過している。

「良くも悪くもなく、普通でしたが、余裕度は結構ありました。3位以内と言わず、優勝して代表を勝ち取りたい。緊張はやっぱりしますが、去年よりは楽しいです。(オリンピックを経験したことで)どこか心に余裕もできて、めちゃくちゃ緊張して縮こまるのではなく、良い緊張をしている感じです」

黒川は前半から飛ばすいつも通りの走りをするだろう。同じ前半型の安部がいないので、前半で黒川に迫る選手は法大の先輩の岸本鷹幸(32・富士通)がどうか、といったところ。黒川が大きくリードしていれば、48秒台前半を期待できる。

3000m障害の三浦は、順大に入学した20年から日本選手に負けたことがない。前半からのハイペースにも、残り1周のスパートでも、どんな展開でも圧倒的な走力を発揮する。
走力というと障害のないフラット種目の走力と考えられがちだが、三浦の場合は3000m障害の走力である。障害のハードリングが上手く、特に接地後の走りへの移行がスムーズで、ブレーキをかけずにスピードを出せる。

どんなペース配分をしても勝てる選手だが、今季唯一の3000m障害レースを走ったゴールデングランプリ(5月8日)では、残り1000mからのスパートを試し、日本人2位選手に9秒もの差をつけた。圧倒的な力を見せていた。

だが、脚を障害に乗せないハードリングをするつもりが、何台かは脚を乗せてしまった。スピードを上げたときは乗せないのが三浦の特徴であり、世界で戦うために必要な部分である。
7位に入賞した東京五輪では、残り1000mを予選(日本記録の8分09秒92)は2分39秒0、決勝は2分39秒8で走った。世界陸上オレゴンで東京五輪以上の成績を挙げるには、そこを東京五輪以上のスピードで走る必要がある。スパートした後のスピードに、芸術的なハードリングとともに注目したい。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)