世界陸上ブダペスト出場をかけて熾烈な争いとなっていた女子100mハードルの代表に、世界陸上初出場となる田中佑美(24、富士通)が選ばれた。
立命館大学陸上部の同期、TBS・高柳光希アナウンサーと当時交わした約束、“インタビュー”がこの度実現。宝塚の夢を諦め、続けてきた陸上への思いやライバルとの関係、世界陸上での目標を聞いた。

日本記録保持者を抑えつかんだ代表切符

今年4月の織田記念。雨が降りしきる中、日本勢として4人目の12秒台となる12秒97をマークした田中。5月のセイコーゴールデングランプリでは12秒89と、さらに自己ベストを更新。日本選手権(6月)の決勝は、日本記録保持者の福部真子(27、日本建設工業)、寺田明日香(33、ジャパンクリエイト)、青木益未(29、七十七銀行)、清山ちさと(32、いちご)と5人の12秒台が顔をそろえるなか12秒96で3位。世界陸上代表入りを果たし、9月に行われるアジア大会の代表にも決まっている。

高柳アナ:めちゃくちゃ変な感じするよね…。

田中:うん、間違いない。

高柳アナ:
緊張するな。この仕事(笑)同期にインタビューするの。やっぱり不思議な気持ちだよね。

田中:
そうですね。高柳がアナウンサーになってから会うと、喋り方が無駄にハキハキしてて、若干気持ちが悪いんですけど(笑)。でも、高柳がアナウンサーになると聞いて「私が結果を出してインタビューしてもらえたら良いね」と話をしていたから、光栄です。

水筒でインタビュー練習(大学時代)

体の柔軟性、優れたバランス感覚 その秘密は・・・

ぎこちない雰囲気で始まったインタビューでは、体がとても柔らかく、バランス感覚が優れている田中の秘密が明らかになった。

田中:
昔クラシックバレエをやっていたのもあって、体をコントロールするっていうところでは競技に生きてるのかなと思います。クラシックバレエは最初バーレッスンから始まるんですけど、先生が今日はこういう振り付けにしますっていうのをさらっと一通りされて、それを自分たちがすぐ真似して踊るというようなことが導入部分であるので、陸上でドリルをする時も、初めて見た動きでもためらいなくできる。真似をするってことの能力はその頃培われたのかなと思います。

高校時代は宝塚の願書を手元に・・・

とても負けず嫌いだという田中。幼い頃から宝塚に入学することが夢だったため、高校進学時には陸上を辞める予定だったという。最終的に宝塚をあきらめ、陸上を続ける決心をした理由とは・・・。

田中:
もっと速くなりたいからという純粋な理由じゃなくて、中学の時ライバルだった女の子がいて、中学卒業時点で若干その子に勝っているつもりでいたんです。その子が高校でも陸上を続けるって言っていて、私が続けなかったら負けちゃうじゃないですか。悔しくて続けたんですよ(笑)。あと、高校2年生でインターハイで優勝して、陸上が楽しくなってきて。実際に宝塚の願書を手元に持つところまではしたんですけど、健康診断とか色々準備があってそこに今ひとつ踏み切れなかった。親に「そんなものなら辞めなさい」って言われてダダ泣きしながら宝塚は諦めました。

高柳:厳しいですね。

田中:いやでも言ってもらってよかったと思います。宝塚も厳しいので。

高柳:入っていたら男役?娘役?

田中:男役です!なんなら芸名を考えるところまでやってました。

高柳:ちなみに?

田中:秘密です。墓まで持っていきます。

高柳:陸上の道に進んで後悔はありますか。

田中:後悔はないです。


「緊張を始める時間」メモに書いて意識をそらす

高柳:
日本選手権が終わってかなり調子のいいシーズンだと思いますが、手応えはどうですか。

田中:
今シーズンは1月末からヨーロッパにインドアツアーの遠征に行かせていただいて、その後オーストラリアでアウトドアの大きな試合に出させていただいて、レースをこなしていく中で調子を上げた状態で入れた。いい流れのシーズンだったなというふうに思っています。

高柳:
冬季の期間で、ここがきっかけになったということはありましたか。

田中:
大きな何かイベントがあったってわけではないんですけれども、筑波大学で谷川先生に教えていただく中で、少しずつ理解してきたメソッドみたいなものであったりとか、それを少しずつ体現できていたなっていうのは練習の中では感じていました。

高柳アナウンサー(左)と田中選手(右)

高柳:
実際海外で転戦したときに、タフになったなみたいな、自分のメンタルとして成長できたなっていう部分はどこでしたか?

田中:
ウォーミングアップですごく集中ができることかなと思いました。今まで結構緊張するたちで、この時間から緊張するっていうのを決めてたんですよ。ウォーミングアップでこの時間からジョグを始めるハードルを跳ぶっていうことをいつもメモに書くんですけど、その前に緊張を始める時間なるものが自分の中にあって。それに従って今までやってきたんですけど、海外のレースをやっていく中で、ウォーミングアップに集中してたら、緊張するって決めてたのに「あれ、案外大丈夫だぞ」みたいな。自分のウォーミングアップに集中して緊張がいい意味で飛んでいくっていうような感覚は何度かありました。

高柳:
緊張って書いたらそこから緊張スタートみたいな感じ?

田中:
そうです、そうです、そうです。そこより先に緊張してくると「私は今日は1時から緊張するんだから、まだ緊張する時間じゃない」と思って、ちょっと意識をそらすっていうのはよくやってました。今回の日本選手権でもまさにやってました。じゃないと前日寝られないので。

高柳: 前日はもう緊張はしてない?

田中: しないようにしてました。それなりに成功したと思います。

高柳:
緊張する時間を書き始めて、ジョグの時間も書いて、全部をスケジュールにして試合に臨む。海外もそう?

田中:
海外もそうでしたし、時間に縛られてはいるんですけど自分に集中することができてました。国内だとやっぱり周りの目線がちょっと気になるみたいなところが、他の選手どうだろうとか思ったりするんですけども、海外だと私のことを知ってる人はいないし、私も相手のこと知らないので、気にしてもしょうがないというか。そういったメンタルのチェンジはあったかもしれないです。

高柳:
海外での転戦はかなり自分の中でもプラスにはなっていますか。

田中:
そうですね。大きな挑戦であったと思いますけれども、ポイント的にもシーズンの導入的にも自分のメンタル的にも、とても良い経験をさせてもらったと思っています。

高柳:
やっぱり田中選手というと、後半の伸びが見ていても気持ちがいいような、後半の追い上げがあると思うんですけど、自分の中では強みはどこですか。

田中:
そうですね、今シリーズの強みはおっしゃる通り、後半の伸びだと思っています。