6月に行われた陸上の日本選手権の男子400mで、45秒15をマークし初優勝した中島佑気ジョセフ(21、東洋大)が、19日に開幕する世界陸上ブダペストの代表に選ばれた。昨年の世界陸上オレゴンでは、男子4×400mリレーのメンバーとして19年ぶりに決勝進出を果たし、世界陸上最高の4位と健闘。個人種目での出場は今回が初めてとなる。最高峰の舞台で、1991年に44秒78をマークした高野進さん以来となる、日本人2人目の44秒台を目指す。
読書家の中島がレース前日に行うこととは。“最も過酷”とされる400mとの向き合い方について聞いた。
ーーー代表選出について
中島佑気ジョセフ:
やっとここまでこられたのかなっていう感じで。計画通りちゃんと順調に成長してきて、やっと個人で世界の舞台で戦えるのが、めちゃくちゃ楽しみですね。
ーーー今シーズン、走るたびにベストを更新しているような印象がありますが。
中島:
走るたびにしっかり分析してトライ&エラーを繰り替えして、何が良かったのか悪かったのかちゃんと考えられた結果、修正できているという証拠なのかなと思います。
ーーー44秒台への手応えはどうですか。
中島:
世界陸上では「決勝に進む」っていう目標を考えると44秒台出すことはマストですし、44秒中盤くらいまでもっていかないといけないので。ただ、今回のヨーロッパで4試合戦ってしっかり勝てた、勝負できてきたっていう結果を考えると、世界陸上の準決勝とかで速い選手と戦っても喰らいついていけるっていう自信があるので、あとは自分を信じて練習とメンタルをしっかり準備してやっていくだけかなって思います。
ーーーダイヤモンドリーグ(7月のストックホルム大会)に出場。1つ夢見てきた舞台だと思います。
中島:
結構あっけなく終わってしまいましたね(46秒21の8位)。もうちょっと戦えると思っていたのが、ちょっとびびってしまったところもありました。ただ1試合、ダイヤモンドリーグに出たんだっていう事実は、この後の3戦で良い結果が得られた(スペインでは45秒12の自己ベスト)こともそうですし、今後世界陸上とか戦っていく上でもすごい自信になりますし、とにかく楽しかったですね。
子供の頃は「人間ってなんだろうとか考えていた」
ーーー小さい頃はどんな子どもでしたか。
中島:
とにかく好奇心旺盛で、何事にも興味を持つことに関してはすごい深堀していく感じで、いろんなことに疑問を持ってましたね。本当に小さいことからそうですし、子供だったらみんな考えるかもしれないけど「人間ってなんだろう」とかそういうことばっかり考えてました。僕ってなんだろうなっていうのをすごくいろいろ考えて・・・いろんなことに疑問を持って答えを見つけていくっていうのをずっとやってた感じですね。

ーーー今もそんなところ残ってるんですか?
中島:
残ってますね。なんでレースの中で肩が上がってしまったんだろうって、レースに1つ1つ疑問を持って分析していって、それで答えを出して、次のレースではそこを修正して、子供のときに養った思考のサイクルが今でも生かされてるのかなって思います。
ーーー小さい頃からなかなかそんなに深く考えないですよね。
中島:
みんな考えてると思ってました。謎ばかりでしたね、周りで。
ーーー雰囲気で終わるじゃないですか、子供って考えても、違うことに目が行く。
中島:
雰囲気じゃ終われなかったですね。哲学的な感じの問いになってるので、今もこれからも常に探し続けるんだと思うんですけど、変わった子供だったとは思います。
“陸上競技で最もきつい種目”を何故、選んだのか
ーーー最初はなんのスポーツをやられてたんですか?
中島:
最初はサッカーですね。兄がサッカーをやってたので、その影響でサッカーをやって。バスケもちょっとやったんですけど、あんま向いてないなって思って、チームスポーツ向いてないなと。全部自分でやりたいなって思って、最終的に陸上に行き着いたっていう感じですね。最初は100m、200mですね。中学2年生くらいは100m、200mで、中学3年生くらいで初めて400mを本格的に初めてって感じです。
ーーー陸上にのめり込んだきっかけは?
中島:
自分でいろいろ答えを探して、それを基に自分が考えた結果でレースプランとか戦略を考えて、それをレースで身体を使って体現するっていうのが面白いからですね。身体と頭を両方使って、特に400mとかはすごい戦略を考えぬいてレースに挑むので、身体と頭をフル活用してレースに挑む感じがのめり込んでいったきっかけですかね。
ーーーそれがどんどん楽しくなって?
中島:
そうですね、考えることが本当に楽しいので。だから陸上が好きなんだと思います。

ーーー400m走ってる間って何か考えてます?
中島:
走ってる間はほとんど考えないです。1、2個・・・最後の100mに差し掛かった時は本当にリラックスして、肩を上げないようにして同じ動きを続けるっていう意識は・・・300mを通過した時点では一瞬意識したりするんですけど、基本的には45秒間無意識の中で走るので、レース中考えすぎると多分動きが悪くなるので、考えるのはレースの本当に前までにしてますね。
ーーー400mの魅力ってどんなところですか?
中島:
魅力ですか・・・う~~~ん。たくさんありますね。300m(付近)で人間の限界に差し掛かって、そのあとの(残り)100mは精神力、どれだけ気持ちが強いかっていうのが最も現れるところでもあるので、そういった限界を超えた先の選手の最後100mの動きとかもそうですし、400mは短距離なんですけどその中でもレースペースとか位置取り、周りの選手との位置関係とかっていうのもすごい大事になってくるので、そういった戦略的なところ、200mから300m速い選手もいれば、僕みたいなラストが強い選手もいるので、そういった選手のタイプ、違いとかにも注目してもらえれば、より面白く見られると思います。
ーーー走り終わった後になかなか立ち上がれない選手も。
中島:
そうですね、僕は30分死にますね(笑い)僕は30分なにもできません(笑い)
ーーーいつもそうですもんね。
中島:
いつもそうですね。終わった後は結構、「次やりたくねえな」って思う時もあるんですけど、30分苦しみの時間が終わると、悔しいなとかここもうちょっとできたなって、より良いレースをしようとまた努力していく意欲がすごい湧いてくるので、不思議ですね。いろいろ考える人のための短距離走なのかなって思います。
ーーー個人のときとマイルリレー(4×400mリレー)の時って、走り終わった感覚は一緒ですか?
中島:
マイルのほうがちょっと楽な気がしますね。僕は大体アンカーなので、走り終わってチームのメンバーが待ってるっていうのは安心できますし、マイル(リレー)のほうがちょっと楽ですね。
ーーー同じ距離なのに不思議ですよね。
中島:
不思議ですね。走っていてもレースパターンとか、マイルはちょっと別物ですよね。
昨年のオレゴン大会で4×400mリレーは19年ぶりの決勝進出を果たし、世界陸上最高の4位となった。
ーーー今回マイルリレーに関してはアジア選手権で佐藤拳太郎選手が45秒00、佐藤風雅選手が45秒13を出しましたけど、刺激になりましたか?
中島:
なりましたね。とにかく嬉しかったですし、日本選手権で戦ってきたお二方がすごい記録を出して。ヨーロッパで自分がいろいろレースに挑む中でもエールをもらえたなと思って、僕自身の自信にも繋がりましたし、45秒00だったので、佐藤拳太郎さんが。僕が44秒出したろっていう感じで戦ってたので、それが更新できなかったのは悔しいですけど、めちゃくちゃ楽しみですね。去年メダルを逃したときに、来年は44秒台を複数人そろえて絶対にメダルを獲るっていうところを話していたのが、本当に現実になろうとしているので、とにかくワクワクしてますね。
ーーー過去最高の状態で迎えられると思うんですけど、マイルリレー日本チーム、どんな走りを見せたいですか。
中島:
マイルリレーは本当に走力と走力のぶつかり合い。陸上の中で最も過酷と言われる400mをいかにチーム力で、ぶつかり合いの中で、団結力とか・・・日本だったらメダルを獲るっていう目標にみんながベクトルを1個に向けて頑張ることによって不思議と最後力が湧いてくるものなので、日本らしいチーム力で走力を120%出しつつ、世界の最高峰の舞台でしっかりと勝負して、他の国に差をつけるっていうところを見せていけたらなと思います。
趣味の読書で「試合に挑むときに頭がきりっとして集中した状態で挑める」
ーーー趣味は何ですか。
中島:
読書か映画です。読書することによっていろいろ想像力が掻き立てられるというか、レース前日とかも部屋では大体本読んで、集中力がすごい上がる感じがあって、雑念を払える感覚があるので、結構読書は大事にしていますね。

ーーー1番お気に入りの本は?
中島:
アイン・ランドさんの『水源』という本です。小説で、主人公はすごい才能と情熱を持った建築家なんですけど、すごくとがった感じのモダンな感じの家を作る人なので、世間からは全然支持されないんですけど、そういった反対を乗り越えてすごい建築、家を造る、建物を造ることに関して本当にすごい高い情熱をもって批判とか逆境の乗り越えて最高の建築家になるという話。
上段1000ページなので全部で2000ページくらいっていう感じで、めちゃくちゃ面白いですね。これが僕のバイブルっていう感じですね。
とにかく自分が信じる、自分の中に確固とした軸、理念を持って、厳しい状況とか自分の軸とか理念を信じて突き進んでいく姿が。自分も陸上選手として、本当に辛い練習とか痛みとかに耐えながら、夢とか理想に向かって突き進んでいくので、主人公のハードロックの姿とすごい重ね合わせて、本当に感化されましたし、確固とした「自分はこう生きるんだ」って生き方を強く持つっていうことを僕に教えてくれた本ですね。
ーーー切り替えられますか?
中島:
本を読むことによっていろいろ自分でイメージとか湧いていくというか、ここで得られた感覚的な体験をそのまま持っていきますね僕は。こういったヒーロー的な小説を読んで、僕はすごいモチベーションが湧くというか、前日とかに読むと感化されてモチベーションが湧くんですよね。自分の高い理想を追っていくことに対してすごい力が湧いてくるので、そのまま力が湧いたまま、その競技に活かすって感じですね。前日とかに何もしないっていうよりかは、そういった想像力を働かせることによってすごい頭も働いて、試合に挑むときに頭がきりっとして集中した状態で挑めるので、前日はすごい本を読むようにはしてますね。
世界陸上ブダペストでは「未来を切り開くパフォーマンスを」
ーーー世界陸上はどんな目標で走りたいですか?
中島:
6月から7月まで遠征してきていろいろ得たものがたくさんあって、世界陸上で勝負できるぞっていう感覚も得た。あとはヨーロッパの4戦で得た経験を世界陸上で発揮するだけなので、すごい自信がありますし、決勝にいったら高野さん以来の決勝で、日本記録も切ってっていうところで。マイルとかに関して考えても、日本の400m全体で未来を切り開くようなパフォーマンスができると思うので、あとはやるしかないっていう感じ。今でやってきた、いろいろ考えながら成長してきた自分の過程が正しかったんだって信じて、ありのままの自分を信じて、世界の頂点でぶつかっていきたいなって思います。