課題は3000m以降のスピード持久

5月7日のゴールデンゲームズinのべおか。13分10秒69の日本歴代2位で標準記録突破を果たした遠藤は、涙ぐみながらインタビューに答えた。
「昨年、ずっと目標としてきた東京五輪出場を成し遂げることができず、悔しい思いをしました。そして『今年の世界陸上に絶対に出てやるんだ』という強い気持ちを持って、昨年の日本選手権後からトレーニングをしてきました」
遠藤の課題は「スピード持久力だった」と住友電工の渡辺康幸監督。昨年12月の記録会で13分16秒40のシーズン日本最高で走ったが、参加標準記録に届かなかった。
「3000m以降でペースが落ちました。4000mから立て直して残り1周のスパートで日本人1位は取りましたが、スピード持久力を克服して3000mからの落ち込みをなくすことが課題としてはっきりしました」
元日のニューイヤー駅伝2区でも歴代日本人最高タイムをマークしたが、中盤で一度、河村一輝(24・トーエネック)に少し離されていた。
3月に準高地の菅平、4月に高地の東御で合宿を組み「やりたい練習がすべてスパッとできた」(渡辺監督)という。かなり質の高いメニューだったという。
それでも故障をすることなく、4月9日の金栗記念1500mに出場。三浦龍司(20・順大3年)には敗れたが、3分36秒69の日本歴代3位をマーク。練習量を落とすなど、大きく調整しないで出場した中でスピードを確認できていた。
ゴールデンゲームズinのべおかでは外国勢の先頭集団の後方で、消耗を避ける走りをした。3000mを7分59秒とハイペースで通過しても一度も離れなかった。課題だったスピード持久力の向上が現れていた。
そして徐々にポジションを上げて残り1周手前でトップに立つと、最後の400mを55秒7~8(動画で計測)でカバー。59秒かかったら標準記録は突破できなかった。ラスト1周は57秒台ならまあまあ速い。55秒台はすごいことなのだ。
課題のスピード持久力が向上していたからラスト1周地点で余力を持つ展開ができ、遠藤の特徴であるスピードを生かすことができた。
バウワーマンTCで3年間武者修行

遠藤は見ているところが高い選手である。福島県の学法石川高校でトップレベルの成績を残し、関東の大学から引く手あまただったが、大学には進まず住友電工に入社した。本人のコメントにあるように、東京五輪に必ず出ると自身に誓っていた。そのため入社3年目から米国のバウワーマンTCにトレーニング拠点を移した。
だが、東京五輪には届かなかった。日本代表になった松枝博輝(29・富士通)と坂東悠汰(25・同)も参加標準記録は破れなかったが、ワールドランキングのポイントで五輪出場資格を得ていた。遠藤はあまり多くのレースを走れないタイプで、ポイントが2人より低かった(今季はワールドランキングも37位で日本人最上位=6月7日時点)。
東京五輪出場には結びつかなかったが、世界トップ選手がそろうバウワーマンTCでのトレーニングは、遠藤の器を大きくした。国内の練習もプラスの面は多い。実際、昨年の日本選手権以降は国内でトレーニングをして標準記録を破った。渡辺監督によれば、スタッフやトレーナーとも意思疎通が綿密にできるので、体調把握や故障をしないための対処はしやすい。練習パートナーが日本選手だけで、余裕を持ってこなすことができる。
それに対してバウワーマンTCでは世界トップレベルの選手が多く、質の高い練習ができる。その利点を渡辺監督は、次のように説明する。
「日本では一番強くても、バウワーマンでは全員が格上です。練習環境も日本の方が恵まれている部分が多い。そういう中でもまれる経験は選手を強くします。3年間と長い期間の武者修行が今、やっと芽が出てきたんです。世界トップチームのノウハウを持ち帰ったことも大きいですよ。行き詰まったときに、引き出しの多さがものすごくプラスになる」
昨年の日本選手権以降、12月のシーズン日本最高記録、ニューイヤー駅伝2区日本人最高タイム、金栗記念1500mの日本歴代3位、そしてゴールデンゲームズinのべおかと、遠藤は高いレベルで結果を出し続けている。日本選手権も普通に走れば3位以内は確実だ。
遠藤はすでに、7月の世界陸上に合わせたトレーニングに入っている。世界陸上に向けてのトレーニングの流れで日本選手権に勝てば、オレゴンへの期待が一気に高まる。トラック長距離種目で、それも日本選手には不得手と言われてきた5000mで世界と戦ったら、長距離界の殻を打ち破ることになる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)