“歩行が困難”だということを利用証で可視化 「誤解を生まないための道具の一つになるかな」

一方で、『なんでそこ、止めるんや』と怒ったおじさんの気持ちもわからないわけではない。というのも、アンケート調査(※1)によると、障害者用の駐車場を利用したことのある人のうち、「急いでいたから」「一般利用者用が空いていなかったから」などという理由で、利用の対象ではない人が不適切に利用していることが明らかになっているのだ。

もっくんのように、見た目に障害があることがわからない場合、不適切だと誤解されてしまうのは、実際に不正利用している人がいるという背景もあるようだ。また、その事実によって、必要な人が障害者用の駐車場を利用することを躊躇することも起きていることが垣間見えてくる。

例え見た目ではわかりづらくても、必要な人が、誤解されずに障害者用の駐車場を利用できるようにするにはどうしたらいいのだろうか。その対策の一つとして、千葉県が始めたのが「ちば障害者等用駐車区画利用証制度」だ。駐車場を利用する際に、利用証を車に掲げることで高齢者や発達障害など、“歩行が困難”な人の適正利用を図り、“困難である”ことを可視化する取り組みだ。

「ちば障害者等用駐車区画利用証制度」の利用者向けチラシ(千葉県提供)

羽生田 副課長
「人をパッと見た時に、なかなかその人の困りごとってわからないですよね。本当に具合が悪くて、病気などで歩くのが困難だとしても『困ってます』と言って歩くわけにもいかない。『見た目は何もなさそうだけど、何か困りごとを抱えているんだな』と、誤解を生まないための道具の一つになるかなと思います」

同様の取り組みは全国的に広がっている。「パーキング・パーミット制度」などの名で、41府県2市が導入している(令和5年3月時点)。千葉県は2年前に導入し、当初見込んでいた利用証の枚数よりも申請が出ているという。これまで誤解されることを恐れ、優先区画を使用することに抵抗があったけれども、この制度のおかげで、障害者用の駐車場を使いやすくなったという意見が集まっているという。

しかし、課題も残る。それは、ニーズに比べて供給が圧倒的に足りていないという問題だ。実際に、必要とする人が駐車するとき、障害者用の駐車場が空いておらず「申請して利用証を取ったのに、使えない」という声を寄せられるという。

羽生田 副課長
「数が足りないのは千葉県に限らず、全国的な課題です。高齢者の方が増えているなかで、入口の近くに多く設置するには数に限りがあります」

主に妊産婦や高齢者、けが人を対象とした「思いやり駐車区画」(千葉県提供)

千葉県ではより多くのスペースが必要になる『車いす優先駐車区画』ではなくて、通常の駐車スペースと同じスペースの『おもいやり駐車区画』だけでもいいから出入口の近くに設けてくださいと駐車場利用者の多い商業施設などにお願いすることで、数を少しでも増やす取り組みをしているという。

本当は障害者用の駐車場を必要としているのに、使えないでいる人たちがいる。羽生田さんは「どんな人でも車を使って行きたいところに行けて、駐車場がないから出かけることを諦めて欲しくない」という。では、私たちにできることは何かないのだろうか。まずは、使う必要がないのに数が足りていない障害者用の駐車場を利用するのは言語道断だ。

さらに、障害者用駐車場を正しく理解することが必要だ。障害者の駐車場を利用している人が元気そうに見えていても、何か困りごとを抱えているのかもしれない。何かしてあげられるかな?と思いやりの気持ちを持てたら…と思う。

※1 国土交通行政インターネットモニターアンケート「公共交通機関を利用する際の配慮について」調査の結果について より