東京電力福島第一原発の処理水について、IAEA(国際原子力機関)は包括報告書で、海洋への放出計画の安全性を保障した。だが、中国は放出に断固反対の立場を貫いている。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、中国外務省が出した談話、それに外務省のスポークスマンの表現から「頑な中国の態度」を読み解いた。
◆「太平洋を下水道にしようとしている」と非難
今年2023年は、日中平和友好条約の締結から45周年の節目にあたる。だが、日本と中国の間には、難しい問題が山積し、節目を祝うというムードにない。その難問山積の中でも、この処理水に関する問題がこのところ、最大のテーマにもなっている。
中国の態度がいかに頑なになっているか、時系列で中国外務省が出した談話、それに外務省のスポークスマンの表現から読み取っていく。
まずは7月4日。日本を訪れていたIAEAのグロッシ事務局長が岸田首相に、安全性に関する報告書を手渡した。その内容は「計画は国際的な安全基準に合致する」、「人や環境への影響は無視できる程度」というものだった。中国は、それにすぐに反応した。
“「IAEAが包括報告書は海洋放出の『お守り』にも、『通行証』にもなり得ない」
「IAEAの権限には限りがある。海洋放出計画の正当性・合法性を審査しておらず、浄化装置の長期にわたる有効性、さらには日本が示した核汚染水の数字的データの信頼性や正確性を確認していない。その結論は限定的であり、一方的である」”
事前に用意していたのだろう、IAEA報告書が公表された直後に、中国外務省は「談話」の形でこのような態度を示した。なお、中国外務省も中国メディアの報道も、海洋放出される水を「処理水」ではなく「核汚染水」と表現している。談話はこう続く。
“「日本は経済的コストを考慮し、国際社会の懸念と反対を無視した。核汚染水を海に放出することを決め、太平洋を下水道にしようとしている」”
表現がずいぶんと激しい。さらにこの談話は「IAEAの報告書の内容がどうであれ、日本が30年間にわたって100万トン以上の核汚染水を太平洋に放出し続けることを、変えることはできない」とも非難。中国の呉江浩駐日大使も「IAEAは、汚染水の海洋影響を評価する組織ではない」と指摘している。
原発の敷地内には、1000以上のタンクが立ち並ぶ。一方、事故で溶けた核燃料(デブリ)には冷却水をかけ続けている。それに地下水や雨が加わり、汚染水は1日約90トンずつ増えており、保管タンクは来年前半には満杯になる。
廃炉のための作業の敷地を確保するにはタンクを減らす必要がある。だから、海水で薄めてトリチウムなどの濃度を国の基準以下にし、海に流すという。それでも、今あるタンクの水を処理するには今後30年以上、放水する必要がある。
◆中国外務省スポークスマンが連日非難
IAEAの報告が出た翌日5日の中国外務省の定例会見で、中国メディアからの質問に対し、スポークスマンはこう答えた。
“「日本がIAEAの報告書を、海洋放出のための『口実』として利用しないよう、我々は求める」”
さらに6日の定例会見でもスポークスマンは、日本政府がこれまで、処理水の海洋放出を決め、そのための法的手段を講じたことなどを列挙し、こう糾弾した。
“「これらは全て、日本側の身勝手さと、傲慢さを十分に体現している」”
7日も非難は止まらない。
“「日本は国内外の強烈な反対を顧みず、核汚染水の海洋放出を強く推し進めようとしている。身勝手であり、無責任であり、人々を納得させられるものではない」”
週末をはさんで7月11日には、こうまで言っている。
“「核汚染水を飲んでも、そこで泳いでも大丈夫だと考える人がいるなら、我々は日本側に対し、核汚染水を有効活用するよう提案したい。海に放出し、国際社会を心配させるのではなく、その人たちの飲み水とし、また、その人たちがその水で泳いでみてはどうか」”
日本政府は福島の漁業者らに対し、風評対策や漁業支援に充てるため、合わせて800億円の基金を用意した。それに対しても噛みついている。14日の中国外務省会見での、スポークスマンのコメントだ。
“「海に流す核汚染水に問題がないなら、福島県の漁業産業はどのような影響を受けるというのか? 日本政府にうしろめたさがないなら、ことを穏便に済ませるためになぜ、補償を支払うのか? 日本政府は国内外の反対に声に、知らんふりを決め込んでいる」”
ここまで来ると、乱暴な表現だけなく、皮肉もたっぷりだ。記者会見でのこれらの発言は、中国の国営メディアからの質問に答える形をとっている。つまり、中国外務省と国営メディアが事前に打ち合わせをし、中国外務省が発信したい内容、使いたい表現に合わせ、記者が質問しているのだ。














