チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世が7月6日、88歳の誕生日を迎えた。インドの北部に亡命しながら、大きな影響力を持っているが、中国共産党政権と対立関係にある。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「時間との戦いが静かに進んでいる」と語った。
◆得意のユーモアで「見た目はまだ50歳」
中国のチベット自治区に住む人々(=多くはチベット族)の男性の平均寿命は71歳。その平均寿命と比較すると、88歳のダライ・ラマは元気だ。しかし、高齢であることに変わりはない。
ダライ・ラマ14世は、中国のチベットを逃れ、ヒマラヤをはさんだインドの北部、ダラムサラという標高の高い街に亡命している。チベット亡命政府の拠点があるこの街で、誕生日を祝うセレモニーが開かれ、その様子が外国メディアを通じて、流れてきた。
それによると、数百人もの亡命チベット人、それに支援者が寺院に集まった。チベットの伝統音楽が演奏されるなか、ダライ・ラマの乗った車両が到着すると、セレモニーは最高潮に達したようだ。ダライ・ラマはユーモアたっぷりにこう語った。
“きょうは88歳の誕生日だが、見た目にはまだ50歳ぐらいかな。”
チベット仏教において、ダライ・ラマは最高の位にある、活仏(=いきぼとけ)だ。だが、決して堅苦しいイメージではなく、いつもユーモアたっぷりでウイットに富む。それがチベット仏教徒だけではなく、世界中の多くの人を魅了し、チベットの人たちを支援するムーブメントを起こしているように思える。
ダライ・ラマについて最近、ニュースになったのは「少年に口づけした」と言って、騒ぎになったことだろう。今年2月のこと、ダライ・ラマは、面会にやってきた少年に対し唇を突き出し「私の舌を吸って」などと言ったようだ。インターネット上でこの動画が拡散し、批判が巻き起こっていた。
ダライ・ラマ側が発表した声明で、ダライ・ラマが「少年とその家族、世界中の友人たちに、自分の言葉が与えたかもしれない傷について謝罪を望んでいる」とする一方、「公衆の面前やカメラの前でさえも、無邪気な遊び心で、面会に来た人をからかうことがよくある」と釈明した。
詳細はわからないが、ユーモアの度が過ぎたようだ。私(飯田)は彼にインタビューしたことがあるが、ダライ・ラマらしいといえば、らしい、という感想だ。
◆チベット族と中国共産党は「対立の歴史」
そもそもなぜ、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマがチベットを離れ、インドにいるか、ということからおさらいしよう。
中国の共産党政権は1951年にチベットに進駐し、現在のチベット自治区を併合した。1959年には、共産党の統治に不満を持つ住民(=チベット族)と人民解放軍が武力衝突し(チベット動乱)、多くの犠牲者も出た。これを機に、ダライ・ラマはインドに脱出。そこで亡命政府を樹立し、現在は1万人強のチベット人が周辺で暮らす。
ダライ・ラマが去った後、共産党による統治が強化されるものの、チベット族住民の不満は収まらない。たとえば、2008年には一斉蜂起する事態になった。チベット自治区だけでなく、チベット族が住む周辺の四川省や青海省でも抗議が広がり、多くの僧侶が抗議の焼身自殺を図った。200人以上が死亡したとされる。
◆目立つ「年齢を意識した発言」
国当局は、チベット支配を進める。一方、インドに亡命しているダライ・ラマは88歳と高齢になる――。そうなると、最高指導者のダライ・ラマの後継問題がクローズアップされてくる。
ダライ・ラマは誕生日を機に発信したビデオメッセージでこんなことを話している。
“時間を短くとらえれば、私は一人の人間に過ぎません。私は思想、ことば、そして死を通じて世界平和に寄与したい。そして、時間を長くとらえれば、すべての人々が悟りに達するよう祈り続けます。”
これが意味することを私なりに解釈すると「人間の生命は限られている。ダライ・ラマであれ、例外ではない。しかし、肉体はなくなっても、どのような形となっても、僧侶として祈り続ける」ということだろう。冒頭に紹介した「50歳のような見た目」というユーモアも含め、私はダライ・ラマが年齢を意識した発言が目立つようになっているような気がする。
チベット仏教の考え方は、「生きとし生けるものは、輪廻の中に存在し、転生を繰り返す」輪廻転生。人や動物、命あるものは、すべて何度も生まれ変わる。活仏であるダライ・ラマも、生まれ変わりが存在すると考えられてきた。歴代のダライ・ラマは死んだあと、チベット族の間で、生まれ変わりの少年探しが始まる。後継者にする伝統が何百年も続いてきた。
だが、これまでの後継者探しは亡命先のインドではなく、中国国内だった。中国当局は後継者の認定権を自らが持つと主張し、関連する法律を施行した。つまり、中国にとって「都合のいい後継者」を選ぶということになる。チベットの人々にとって、最大の懸念が、この後継問題だ。














