その頃「どうぶつ奇想天外!」は、都心の街路樹に作られた巣を見つけ、目の前のビルの窓から至近距離で「カラスの子育て日記」を撮影していました。卵が産みつけられ、やがて孵化し、親たちが餌をヒナの大きな口に与える。心温まる親子の愛情ドキュメント。すくすく育ちもうすぐ巣立ちというある日、行ってみたら巣ごと消えていました。おそらく撤去されたのでしょう。

東京都は巣の撤去とトラップによる捕獲を行いましたが、最も効果的といわれたのが生ゴミ対策でした。要はカラスのエサを断つこと。繁華街では深夜のうちにゴミを収集する、住宅地では容器に入れたりネットをかけたりして個別収集する。ゴミの量そのものを減らす取り組みも功を奏しました。2001年に36,400羽いた東京のカラス。その数はどんどん減り、5年後には半減、昨年には4分の1以下にまで減りました(東京都調べ)。

さて、生ゴミを断たれてお腹の空いたカラスはどうしたのか?当時は小鳥などの野生動物が襲われて数が減ったという報告もありましたが、最終的には多くのカラスが冬に餓死したと考えられています。ゴミが増えるとカラスも増え、それが断たれると飢えて死んでいく。

エサがなければ飢えて死ぬのは「自然の摂理」

一般に野生の世界では、生きものの数はエサに左右されます。例えば、アフリカのサバンナでは干ばつが続いてシマウマやヌーがいなくなると、ライオンやハイエナが餓死したり子供を産み育てられなくなったりします。雨が降れば草食獣が増えて肉食獣も増える。こうしてバランスが調整されます。「捕食者はエサ次第」というのは、動物ドキュメンタリーではよく目にする光景。普通のことなのです。

カラスも野鳥ですから同じこと。冬になると虫や果物などのエサが捕れなくなるので、一定の数が餓死すると考えられています。それは、自然の摂理。とても賢く、仲間を大切にするカラスですが、飢えには抗えません。そうやって数が調整されるのです。

ひとつだけ違うのは、東京のカラスのエサは人間次第ということです。1970年頃、都心にカラスはあまりいませんでした。1980年代に飽食の時代を迎えるとカラスも激増して社会問題化し、やがて人間が生ゴミを放置しなくなるとカラスも飢えて減っていく。エサによって激増し激減もする。

ここでふと、人間の「エサ」は大丈夫かと心配になります。人間も急激に数を増やしているからです。

70年前30億人に満たなかった世界人口は、現在80億人を超えました。これほど急激に増えることができたのは、食料を飛躍的に増やしたからです。化学肥料の発明、大規模な灌漑工事、農薬散布、遺伝子組み換えなど。どれも人々を飢餓から救ってきたありがたい技術なのは間違いないのですが、その食べ物は自然そのものではありません。人間の強い力が自然に働きかけて生み出したもの。それが80億もの人を養っているのです。

ちょっと危うい感じの、人間の「エサ」。

(参考:かつて番組でお世話になった杉田昭栄・宇都宮大学名誉教授、塚原直樹・CrowLab代表取締役の著作物と、東京都環境局のHPを参考にしました)