◆県知事訪問にタイミング合わせて日本をけん制か
玉城知事は、習近平氏の発言について「今後の交流発展に意欲を示したと受け止めている」と冷静に受け止めている。ただ、沖縄は尖閣諸島の帰属問題に限らず、日本と中国の間でいまだ、敏感な場所でもある。
歴史をたどると、建国の父、毛沢東は戦前の1939年に、沖縄についてこんな論文を書いている。「沖縄は、帝国主義国家が強奪した『数多くの中国の属国と領土』の一つである」。その後、このような主張は消えた。
だが、今世紀に入ると、「中国は沖縄に対する権利を放棄していない」、または明治政府による琉球併合(1879年)も、戦後の沖縄返還(1972年)も国際法上には根拠がない」と主張する研究論文が発表され始めた。関連した論文は数十本に上る。沖縄がかつて琉球王国時代に中国との交易で栄え、中国に従属する地位にあったことを根拠にしているわけだ。
2005年や2010年に、中国各地で反日デモの嵐が吹いた。デモの中には「琉球を奪回せよ、沖縄を解放せよ」と書かれた横断幕も登場した。デモは陰で、当局が操っていたとみられる。今日に至っても、中国は沖縄を駆け引きの材料にしてしまいかねない。
沖縄に関する習近平氏の発言は、沖縄だけではなく、地理的に近い台湾を、視野に入れながら、日本をけん制しているようにも思える。沖縄県の玉城知事は駐留米軍の基地問題で、政府との関係がぎくしゃくする。その玉城知事の中国訪問に、タイミングを合わせたような動きにも思える。
◆変わらない「沖縄ゆえに」という事情
玉城知事は昨年11月に、中国の有力紙による単独インタビューに応じている。知事本人は基地問題について、いつもの主張を述べているだけだが、中国のメディアでは、「県民は基地負担にこれ以上、耐えきれない」「辺野古の基地建設には同意していない」などの部分が強調されていた。アメリカ軍の基地負担の軽減を求める玉城知事を、中国は歓待している。
その玉城知事はきょう7月6日とあす7日の2日間、沖縄県と友好関係にある福建省を訪れる。先ほど紹介したように、習近平氏が17年も勤務したゆかりの地だ。友好関係を結んで26年になる。
沖縄は古くから、中国や朝鮮、アジアの国との間で、海洋貿易国家として栄えた。一方で、その地政学上の特性のため、さまざまな国の思惑の渦中にあった。沖縄県という地方の行政組織が、独自に外交を進めるのは、注目されるが、他の自治体と違い、「沖縄ゆえに」という事情が存在するのは、21世紀の今日になっても変わらないように思える。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。














