◆「共同生活のルール」

神戸:恋愛は自由だが、結婚したら共同生活から離れる。毎朝8時から9時に起きて、動物の世話や朝食を各々で済ました後、12時頃から1時間、聖書の勉強会。そのあとに、皆で揃って昼食をとる。原則として、単独での外出はしない。店の売り上げは、経費を除いて全て貯蓄。つまり、個人の財産は持たない。
神戸:現在、共同生活しているメンバーは12名。正会員は全国で28名、協力者を入れると100人以上というグループになっています。決して孤立しているわけではなく、お店を開いてお客さんを入れていますし、店長は中小企業家同友会の会員にもなっています。
◆「中に入って見れば、普通のいい人たち」

神戸:彼女たちは、宗教的なつながりを持った集まりではあると思うんですが、「宗教団体ではない」とも言っています。どういう人たちだという印象ですか?
佐井:僕の印象は「普通の人」なんですよね、みんな。個々人と話していくと、普通のいい人たちなんです。ただ、「イエスの方舟」という“外側”を見ると、やっぱりちょっと普通じゃない気がする。中に入っていくと、全員普通。
佐井:でも、いざ自分の恋人や奥さんや娘が「イエスの方舟に入りたい」と言ったら、進んで送り出すかと言ったら、そうは言い切れない自分がいて、この距離感が、すごく難しかったです。取材をしていく過程で、彼女たちの受けている誤解を解きたいと気持ちが動いていていったんですけど、彼女たちの生きざまを肯定して、「素晴らしいものなんだ」という風な立場に立つことは、彼女たちは宗教じゃないと言っていますけど、それって宗教に入ったことにかなり近い立ち位置だったりするので、公共の電波=テレビで発表する難しさを感じました。
神戸:「千石イエス」こと、代表の千石剛賢さんは2001年に亡くなって、今の責任者は妻のまさ子さん。89歳になってから絵を描き始め、売り上げは児童福祉施設に寄付していると言います。もう90歳なんですが、ステージに立ってお客さんを楽しませているという話です。
◆「信仰」をテレビで報じる難しさ

神戸:取材する佐井さんもかなり悩んでいたようです。感情移入して「いい人たちだ」と前面に出していってしまうと、どこかでプロパガンダのようになってしまうんじゃないかという懸念もあったそうです。
佐井:ドキュメンタリーというのはすごく、主観的な方法論だと思うんですが、主観的な方法で宗教を扱うことがこんなに難しかったのか……編集して構成している時、自分がその気がなくても「プロパガンダ以外の何物でもない」ような仮編集が上がってきて、それがやっぱりすごくきつかったですね。
佐井:でもフラットにしたら、自分が取材していることの意味がなくなってしまう。「語り口」みたいなものをどういうふうにしていくか、取材対象との距離の取り方という点と、どういう語り口にするかっていう2点が、かなり難しかったです。
神戸:ナレーションも佐井さんが自分でやっていて、なかなか面白かったです。映像表現もすごかったでしょう?
田畑:今の若い感性をすごく活かした編集で、割とテンポの速いカット編集をしていましたね。
神戸:電話取材のシーンでは、電話だけをずっと固定で撮っていて、声だけが入ってくる。今の若手は、こういう大胆な表現もありうる。この番組の「懐の広さ」みたいなものを感じました。今のドキュメンタリーシーンの先端にあるような表現だと思いました。そして、そこに載ってくるのが「44年目の真実」、イエスの方舟でずっと変わらず生活をしている人、というのも面白いと思いましたね。
神戸:私たちの近くで、彼女たちはどういったことを考えて暮らしているのか。私達の社会は、どう考えていくのか、統一教会の問題などが起き、宗教についていろいろな見方がありますが、一つの題材として考えるのにとてもよい番組ではないかと思います。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。














