ライフサイエンス分野を長崎の成長産業として位置づけようと、産学官が連携し、長崎から医療機器を生み出そうという動きがあります。
長崎総合科学大学の川添 薫教授は、高い製造コストが原因で普及が進まない医療機器を、長崎の産学官の連携によりコストを抑えて生産し、世界に普及させることを目指しています。
一方、製薬用機器の大手『オーカワラテック』は、造船で培われた長崎の金属加工技術を求め3年前に進出。新たな製品の開発に意気込んでいます。
長崎の産・学・官が連携し、コストを抑えた医療機器を世界へ

先月25日に行われた『第2回 医療・福祉機器ものづくり検討会』には長崎県内28の企業や大学、県や市の担当者が集まり、長崎に医療機器の生産・販売拠点を設け、国の内外に販売していくために必要なことなどが検討されました。

長崎総合科学大学 工学部医療工学コース 川添 薫教授(医学博士):
「認可をとるための研究やデータをどこからどういう風に出していくか、企業だけではなかなかできない」

この日登壇した長崎総合科学大学の川添 薫教授は、およそ30年にわたり医療機器の研究開発を行っている医学博士です。
“内視鏡検査技師”や“臨床工学技師”としての経験を活かした医療機器を開発しています。
長崎総合科学大学 川添 薫教授:
「臨床で使われるものを開発することで、一挙に『治療の仕方』が変わったりとか、『患者様にとっての負担』がなくなったりとか、『患者様が即座に苦痛なく』治療を受けられたりとか」


川添教授が開発した内視鏡検査に使う『拡張バルーン』です。
鼻に入れたチューブを膨らませることで空間ができ、内視鏡を挿入する際の痛みの軽減につながります。
長崎総合科学大学 川添 薫教授:
「これはまだ製品化には至っていないんです。大量に作るときの“単価”を いかに落としきれるかを、企業と話し合っていかないといけない」


ヨーロッパでは一般的に使われているものの、日本ではあまり普及していない製品もあります。
例えば、10年かけて開発した『内視鏡の洗浄球状ブラシ』は直径2~3ミリ程の球状で、繊維でできています。

長崎総合科学大学 川添 薫教授:
「(球状ブラシを内視鏡に)吸わせるだけで(内部の)汚れが取れます」

“球状ブラシ”は、内視鏡内を通過する時に、付着した粘液や血液を取り除くことが出来ます。
また、短時間で洗浄できるため、検査スタッフの作業効率もあがりますが、日本では “コスト”を理由に普及していないと言います。
川添教授は材質を変えるなどして、価格を抑えるアイデアを企業側に求めたいとしています。
長崎総合科学大学 川添 薫教授:
「設備投資的な問題がありますが、長崎県でスムーズに生産できるようになれば、全世界的に一挙に流せる商品ではあります。
長崎の企業の方々と、手を組んでやっていきたいと思っています」
ステンレスを鏡のように──造船で培われた技術を求め長崎へ進出

3年前に静岡から長崎県諫早市に進出してきた機械メーカー『オーカワラテック』
薬の顆粒や錠剤などを作る機械を製造・販売しています。

国内の製薬メーカーのおよそ8割でオーカワラテックの機械が使用されていますが、更に品質を上げるため長崎の企業の技術を求めて進出しました。

オーカワラテック 小柳 敦社長:
「静岡から長崎に進出した大きな理由の一つが、造船で培った“金属加工の技術”。ここを大きく求めていたところです。
私ども以上の金属加工の“技術”をお持ちになっている、“知識”をお持ちになっている企業さんがたくさんありますので、その辺をご提供いただきながら、新たな装置の方に展開できたらと思っているところです」

工場にあるのは、薬などの0.1~0.3ミリの顆粒・細粒を作る装置『フローコーター(造粒機)』です。

薬の製造には機械の洗浄が重要で、粉が付着しにくく、汚れがすぐに落ちるよう、ステンレスの表面を“鏡”の様に加工する技術が求められます。


また『アイソレーター』では、1つの機械で複数の薬を製造するケースもあるため、“洗い残し”があると別の薬の成分が混ざってしまう恐れがあります。
これを防ぐには、“溶接部分の滑らかさ”が重要になります。

オーカワラテック 小柳 敦社長:
「滑らかでないってことは、ミクロ的に見ると凹凸がある。
後で違う薬を作った時に、異物の混入発生の原因になるので、滑らかに加工することによって、異物の発生を抑えられる」

オーカワラテックは、長崎の企業の技術力と共に、新たな製品の開発を目指しています。

オーカワラテック 小柳 敦社長:
「まだまだ製薬メーカーが求めるレベルに至ってない部分も実際ございます。
この辺の技術を向上させることによって、全て長崎で“ものづくりが”できる、長崎から医薬の装置を全国に展開できる、そういうところまで早くもっていきたいなというところです」
長崎から新たな医療機器を生み出すことができるのか──
産学官が一体となった挑戦が行われています。