一般に、女王アリはオスと交尾すると、一生分の精子を体の中に蓄えます。その精子を少しずつ使って卵を産み続けるのです。グンタイアリなら、その数は毎月400万個!コロニーはすぐに巨大化しますが、そのメンバーは兵隊アリも働きアリもみんなが1匹の女王アリの娘たち。1匹の母と無数の姉妹たちという、血縁で結ばれた巨大集団なのです。さらに働きアリ姉妹同士の血縁度は75%と高く、コロニーのために働くことは自分の遺伝子を残すことになるというのです。

このように、まるでひとつの生命体のようにふるまう集団のことを、生物学では「超個体」と言います。

なるほど!集団全体がひとつの個体なのか。説明を聞いて、”もやもや”は解消。
そのスッキリ感を、今でもはっきりと覚えています。

働きアリが「献身的」に働き、自分たちの体をつないで橋を架けたり、巣になったりするのは、自分たちの遺伝子を残すためでした。動物たちのお母さんが我が子に「献身的」にふるまい、時には我が身を犠牲にするのと同じだったのです。

働きアリが妹たち(サナギ)を運ぶ
働きアリが妹たち(サナギ)を運ぶ

グンタイアリの「統率力」の正体は?

さらにグンタイアリの「統率力」の答えも、ここにありました。女王アリはひたすら卵を産み続けるだけで、群れを「統率」しませんし指示も出しません。でも、「個体」なのだと考えれば、誰かが「統率」しなくても問題ないことがわかります。

ひとつの個体。例えば人間の体は「統率」されていません。脳を介さずともさまざま臓器同士がホルモンで連絡を取り合いながら、自然に活動しています。
例えば、お腹いっぱいに食べると腸はホルモンを分泌し、さまざまな臓器に指令を出します。脾臓に働きかけてインスリンの分泌を促したり、脳に作用して満腹感を感じさせたり、胃に働きかけて蠕動運動を抑えさせたりします。内臓同士はいつもこのような情報交換をしているそうです。私が知らないうちに私の体は自然に勝手に働いている。人の体(個体)は自然の営みそのものです。

私たちがグンタイアリの「統率力」につい驚嘆してしまうのは、人間社会の固定感観念や思い込みのせいではないでしょうか。集団ではリーダーに「統率」されないと動けない人間たち。アリの一匹一匹に主体性や個性があると思うからわからなくなる。アリたちの群れ社会は「超個体」という、人間社会とはまったく異なるふしぎな世界だったのです。自然の営みは、私たち人間の発想では及びもつかない、意外性に満ちたもののようです。

こんな話を働きアリたちが聞いたら、きっとこう言うでしょう。
「アタシたちには『統率』も『共通認識』も必要ないわ。只々自然に、アリのままに生きてるだけよ」

参考図書:「アリ語で寝言を言いました」村上貴弘著・扶桑社新書、「臓器の時間」伊藤裕著・祥伝社新書