人の暮らす家がそのまま世界遺産になっているケースがあります。世界遺産というと壮大な宮殿や大聖堂というイメージが強いので、「一般人が住居として暮らしている世界遺産がある」というとちょっと意外かもしれません。しかし、人間が家という生活の場にしてきたからこそ守られてきた世界遺産も多いのです。
(執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太)
かつては1万基以上あったオランダの風車。今では…
まずはオランダの世界遺産「キンデルダイクの風車群」。キンデルダイクという村で今でも使われている19基の風車です。オランダは干拓によって出来た国で、国土の25%が海抜ゼロメートル以下。放っておくと水浸しになってしまうので、風の力で低い土地の水をくみ上げ、運河へ排水するために風車は作られました。かつては1万基以上あったオランダの風車ですが、風力から電力へと時代が変わって激減。キンデルダイクのようにまとまって風車が残っている所は他にないのです。

この風車に住み、家としているのが「風車守り」と呼ばれる人たちです。風車を効率的に回すためには、風の吹いてくる方向に風車の羽根を向ける必要があります。風車守りは風を読み、巨大なウインチを人力で回して羽根を風上に向けつづけているのです。

番組では彼らが暮らす風車の中も撮影したのですが、「風車小屋」というイメージとは正反対の広くてモダンな普通の家でビックリしました。普通と違うのは、羽根の回転を地下の排水用水車に伝えるための大きなシャフトが家の真ん中を貫いていること。居住スペースはこのシャフトを囲むように作られています。

家族で暮らしている場合もあり、子どもたちは風車から学校に通います。19基すべてが現役で稼働中のキンデルダイクの風車。風車守りが住むことによって、家でもある風車が維持され、その排水機能によって村の美しい田園風景も守られてきたのです。

村の住居は崖に開いた無数の穴
人が住むことで守られてきた世界遺産、二番目はイランの「メイマンドの文化的景観」です。イラン高原のメイマンドという地域には、2000年以上前から遊牧民が暮らしています。その遊牧地と彼らが住む村が世界遺産になっているのですが、村の住居は崖に開いた無数の穴、「洞窟」です。