東日本大震災の発生後、医師不足が深刻な沿岸被災地で地域医療に尽力し続けた医師が退職します。被災地の住民の命と暮らしに向き合った12年で見えたこととは。
2011年から12年にわたり岩手県立宮古病院で応援招へい医師として務めた循環器内科長の前川裕子医師。来月いっぱいで退職します。
前川さんが務めていた都内の病院を辞めて県立宮古病院に着任したのは震災発生の3か月後、2011年の6月でした。
(前川裕子さん)
「3か月以降となると一般的にも急性期を越えて慢性期っていう位置づけになると思うんですけれども、もう災害医療という様相はなくて持病の悪化、あと避難所生活で体調を崩されて救急搬送されるような方。そういった方を診る機会が多かったと思います」
そこで目の当たりにしたのは深刻な地方の医師不足と震災によって一人ひとりの体調管理が後回しにされがちとなっていた被災地の現状でした。
(前川さん)
「例えば心不全ですごく心臓が大きくなって具合が悪くなった患者さんが入院して、治療して心臓がすっきりして、お元気になって退院したのに、2週間後にはまたすごくパンパンに足が腫れたり、心臓がすごく大きくなって再入院してしまう」
病院での診察・治療だけでは限界だと感じた前川さんは一人ひとりが食生活や体調管理に関心を持ってもらえるよう心不全手帳を作成・配布したり地域に出向いて健康教室を開催したりするなどして、心不全の患者の再発を予防し早期入院率を半減させました。
(前川さん)
「患者さんの生活そのものをみなければ医療は成り立たないっていうことに気づいて、それに向かってやってきたことで、より自分の将来目指していきたい医師像が見えてきました」
着任前は常勤医1人だった循環器内科は現在5人体制。地域との連携態勢も構築した前川さんは被災地での経験を糧に、次のステップへと巣立ちます。