“ユーリー・コワルチュク”というロシア人の名を聞いてピンとくる日本人はまずいないだろう。政治家でも軍関係者でも、元KGBでもない。しかし、プーチン氏と最も親しい人物とされている。そして、彼こそがプーチン氏にウクライナ侵攻を進言した男といわれている。
決して表舞台に立たない“プーチン氏の親友”の正体に迫った。

「“お金の管理と愛人の面倒” ~プーチン大統領のプライベートを仕切ってきた人」

番組のインタビューに応じてくれたジャーナリストは、ロシア国内でもあまり知られていないユーリー・コワルチュク氏を取材してきた数少ない人物だ。彼曰く“コワルチュクは殆ど表舞台に出ない”が、“プーチン氏にとって特別な存在”だと話す。

ジャーナリスト ジェグリョフ・イリヤ氏
「プーチン氏は信頼関係に悩んでいて、コワルチュク氏と一緒にいる時だけリラックスできる。
(コロナ禍でプーチン氏が人と会うことを極力控えていた時)コワルチュク氏は2年近く大統領公邸でプーチン氏と一緒に過ごした。つまり大統領にとって家族のような存在だった。(中略)あるパーティーでコワルチュク氏がふざけてプーチン氏の皿にあった食べ物をつまみ食いする場面があった。彼はプーチン氏の皿にあるハンバーグを取って食べることができる存在なんだ。
これは最高に親しい関係を表すエピソードだ。想像してくれ、王様が自分の食べ物を取り上げられるんだよ。ハハハ…」

親しいだけでなくプーチン氏に強い影響力を持つコワルチュク氏は、極端な反欧米派だった。そのコワルチュク氏がプーチン氏にウクライナ侵攻を促したという。コワルチュク氏はこんな言葉でプーチン氏をその気にさせたと、イリヤ氏は言う。

ジャーナリスト ジェグリョフ・イリヤ氏
欧州は今弱っていて、戦争することで新たな領土を獲得できて、欧州をさらに不安定化でき、ロシアを強くできる、って進言したんだ。(中略)コワルチュク氏はプーチン氏にとって一緒に楽しく時を過ごせ、ジョークを言い合い、笑って相談もできる人物。“親友”だ。彼以外のプーチン氏の親友を私は知らない。プーチン氏は大統領になって以来、過去に仲が良かった人に対し信頼を失った。親友であり続けた人、それがユーリー・コワルチュク氏なんだ」

プロフィールを見ておこう。

ユーリー・コワルチュク氏(71歳)
“プーチン氏の個人銀行”ともいわれるロシア銀行のオーナーの一人で“銀行王”と呼ばれる。
“メディア王”でもあり『チャンネル1』など23社のメディアを有する。ロシア最大規模のメディアグループのオーナーであり、そのグループの会長職にはプーチン氏の愛人とされるカバエワ氏の名もあった。個人資産は日本円で約3700億円とされる。
駒木明義氏によれば“お金の管理と愛人の面倒”をさせている、よほどの信頼関係という。

朝日新聞 駒木明義 論説委員
「プーチン大統領のプライベートを仕切ってきた人。カバエワさんとは別にもう一人愛人がいると言われていて、クリヴォノギクさんというんですけれど、2003年にプーチンの娘を産んだのではないかとされる。その女性はプーチンの個人銀行といわれるロシア銀行の大株主です。つまりロシア銀行とメディアグループとで2人の愛人の面倒を見て来たんじゃないかと…。さらにプーチン氏の娘の結婚式もコワルチュク氏が仕切ったと言われます」

コワルチュク氏は90年代、プーチン氏がまだ無名の存在だった時からの仲だというが、拓殖大学の名越教授によれば、90年代にオリガルヒになったセーチン、ローテンベルク、ティムチェンコらとコワルチュク氏も同等だったが、コロナ禍がプーチン氏とコワルチュク氏を密接にさせたと話す。

拓殖大学 名越健郎 特任教授
「コロナの時、コワルチュクとだけ頻繁に会っていた。コワルチュクはもともと物理学者なんですが、両親が歴史学者なんです。で昔から大ロシア主義が強い人なんです。90年代に物理学の世界からビジネスに入ってきた。それでプーチンの汚れ仕事をやって、裏を全部知っている人なんだと思う」