今年は、世界遺産が誕生して50周年です。正確に言うと、ユネスコの総会で「世界遺産条約」が採択されたのが1972年11月16日で、それから50年経ったということになります。
(執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太)

世界遺産条約の“契機”「アブ・シンベル神殿」

世界遺産はユネスコが勝手に指定しているわけではなく、この国際条約に加盟している国々が自国のものを推薦し、それを加盟国で構成する「世界遺産委員会」で審議して世界遺産にするかどうかを決めています。まさに世界遺産というシステムの根幹なので、この条約の採択をもって世界遺産誕生の時としているわけです。

では世界遺産条約は、なぜ生まれたのでしょうか。契機となった古代遺跡が、エジプト・ナイル川上流域にある「アブ・シンベル神殿」です。3000年以上前、古代エジプトの王・ラメセス2世が築いたもので、岩山を掘り抜いて作られた壮麗な神殿です。

アブ・シンベル神殿

ラメセス2世はナイル川流域を統一したことから「最強の王」「征服王」と言われ、神殿や巨像などさまざまなものを建造したことから「建築王」とも呼ばれます。

アブ・シンベル神殿は、彼が作った中で最も美しいと称されるもの。番組で撮影したのですが、外側には高さ21メートルもある巨大なラメセス2世の坐像、内部には戦闘で敵を圧倒するラメセス2世の壁画、さらに神の姿をしたラメセス2世の立像が8体も並んでいるなど、もうラメセス2世だらけ。

アブ・シンベル神殿内部ラメセス2世の壁画

放っておいたら水没の危機

この神殿はナイル川のほとりに建っていたのですが、1960年代、アスワン・ハイ・ダムの建設によって水位が上昇することになり、放っておいたら水没してしまうという危機が迫りました。このときユネスコが音頭を取って、50カ国が参加する国際的な救済プロジェクトが始まります。

アブ・シンベル神殿移築工事