有史以前、まずアフリカ大陸とヨーロッパ大陸が南北から移動してきて衝突。そのときに一部の地域で、アフリカ大陸の古い地層が、ヨーロッパ大陸の新しい地層に乗り上げます。

あまり聞き慣れない地名ですが、スイス東部の3万ヘクタール以上もある広大なエリアで、標高3248メートルのリンゲルシュビッツなど3000メートル級の山々がそびえます。さらに青い湖も点々とし、麓の谷間には「アルプスの少女ハイジ」に出てきそうな牧歌的な村があり、知られざる絶景地帯といえます。

さらに50年ほど経って、地球の表面はいくつものプレートで覆われていて、地下のマントルの対流に伴ってプレートが移動。プレートに乗っている大陸も動く・・・という「プレート理論」が登場して、なぜ大陸が動くのかも説明できるようになりました。これによってかつては妄想扱いされた大陸移動説も再評価され、今では定説になっています。

世界遺産に選ばれるための条件のひとつに、「地球の歴史を物語るもの」というのがあります。サルドーナ地殻変動地帯は、移動する大陸の衝突がアルプス山脈を生んだという地球史の大イベントの証しとして世界遺産になったわけです。

山の上に海岸線の跡…毎年9ミリも地面が上昇する理由

マジックラインと同じように地球の歴史を語るものとして世界遺産になり、摩訶不思議な現象が起きているのが北欧スウェーデンの「ハイコースト」です。ハイコーストは首都ストックホルムから北へ500キロ、ボスニア湾に面した海岸で、多くの入り江や断崖、そして島々といった多様な景観を見ることができます。

実は、ここでは毎年9ミリも地面が上昇をつづけていて、そのため海が陸になり、どんどん土地が増えています。番組ではハイコーストにある入り江の村を撮影したのですが、この300年で海岸線が40メートルも海側に引いてしまったため、かつて海辺にあった家々は今ではかなり内陸に建っています。

高所にあるかつての海岸線跡

この上昇現象は、氷河期が終わって一帯を覆っていた巨大な氷河が消え、その重みで沈み込んでいた大地が解放され「リバウンド」しているためと考えられています。大地のリバウンドといわれてもにわかには信じがたいでしょうが、データ的にはハイコーストにあった氷河は最大で厚さ3000メートルもあり、1平方メートルあたり2700トンもの加重がかかり、それによって大地は800メートルも沈み込んでいたと推定されています。その重みがなくなったのは氷河期の終わった1万年前。以来、ここの地面は少しずつ上昇を続けているのです。

ハイコーストには大地のリバウンドによって生まれた標高300メートル近い山もあり、山頂付近にかつての海岸線の跡も残っています。ハイコーストとは「高い海岸線」という意味で、山のような高所に海岸線の跡が残ることが地名の由来です。こうした氷河の消えた後に土地が上昇する現象は他の場所でも起きているのですが、世界最大級のリバウンドを起こしているハイコースはその最も顕著な例として世界遺産になりました。

大地のリバウンドで生まれたスキューレ山

アルプスのマジックラインや北欧の1万年上昇し続ける大地・・・世界遺産にはときにミステリアスなものもありますが、それは地球という惑星がたどってきた歴史の証しでもあるのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

スキューレ山山頂近くのかつての海岸線跡