アンコール・トムの「象のテラス」

王は新しい都としてアンコール・トムも作りました。10万人が暮らしたという大都市で、その遺跡も世界遺産になっています。上空から撮影すると、3キロ四方の城壁と濠で囲まれていて、四角く巨大な城塞都市だったことが分かります。

アンコール・トムには「象のテラス」と呼ばれる、高さ3メートル、幅300メートルもある石造りの基壇も残っているのですが、これは凱旋した軍隊をジャヤバルマン7世が閲兵するために作られました。

象のテラス

戦車であった象の大きな彫刻が基壇に刻まれていることが、遺跡名「象のテラス」の由来です。こちらも空から見ると、テラスの前には広大な空間があり、ゾウと人の大軍団が行進した、当時の様子を彷彿とさせます。

このテラスの北側に、「ライ王のテラス」と呼ばれる遺跡があります。そこに逞しい身体の坐像があって、かつてはジャヤバルマン7世の姿とされていました。ここを訪れた三島由紀夫は、この像を見て物語を着想し、遺跡の名前を戯曲の題名にしたのです。

その戯曲が帝国劇場で初演されたのは1969年。三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊駐屯地で自決する前年のことです。

作家が魅せられた坐像は、その後の研究によって、現在ではヒンドゥー教の死の神ヤマとされています。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太