一昨年、強い批判を浴びて廃案となった入管法改正案を、再び国会に提出する動きが表面化し、反対の声が広がっているが、いまの入管法に基づく収容が国際法に違反すると訴えた裁判が東京地裁で続いている。入管法の根本を問う法廷から報告する。
(神田和則:元TBSテレビ社会部長)
全2回のうち2回目)

入管収容1300日余り…、複数回の自殺未遂、うつ病を発症

「(国側の)回答には失望している。正面から答えていない。怒りを感じる。裁判の進行を妨げると抗議する」
昨年8月、東京地裁の法廷。原告側の弁護士が、国側の代理人に強く迫った。

「日本政府として、入管法の規定が自由権規約(国際法)に違反していないと言うのであれば、根拠をはっきりさせてください。いまも入管で無期限に収容されている人がいます。国民に対して説明責任を果たしてください」

この裁判は、強制退去処分となり入管に収容されたトルコ国籍のクルド人デニズさんとイラン国籍のサファリさんの男性2人が起こした。

訴えによると、デニズさんは07年に来日、トルコ政府による少数民族クルド人への迫害を理由に4回、難民申請したが認められず、これまでに合計で1384日、入管に収容された。

一方のサファリさんは91年に来日、祖国で不当に自由を奪われるなど迫害を受けたとして3回、難民申請したが認められていない。入管収容は1357日に上る。

 収容によって、デニズさんは精神的に耐えられなくなり、複数回自殺を図るなど心身の健康状態を害し、サファリさんもうつ病と診断された。

2人は、全国の入管収容者が長期収容に抗議したハンガーストライキに加わって体調を崩し、2週間だけ仮放免され、再び収容される苦痛も強いられた。 

サファリさんは、私の取材に、入管職員から受けた理不尽な暴行などを挙げて「入管では信じられないことが起きている。日本ではない、地獄。たった2週間で再収容される怖さは、経験してみないとわからない」と涙ながらに語った。

国連作業部会への「個人通報」から裁判へ

2人は裁判を起こす前に、19年10月、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会に「個人通報」を申し立て、極めて長期の収容に、短い2週間の仮放免、その後再び収容という状態が恣意的に繰り返されているなどと訴えた。

20年8月、作業部会は、「2人に対する身体の自由のはく奪は、世界人権宣言、自由権規約に違反して恣意的」と結論づけた。

ここで根拠となった「自由権規約」は、第2次世界大戦中に起きた大量虐殺などの人権侵害や抑圧を教訓に、国連が1948年に採択した「世界人権宣言」を条約にしたものだ。第9条では「すべての者は、身体の自由および安全についての権利を有する。何人も、恣意的に逮捕され、または抑留されない」とうたっている。

作業部会の決定は、具体的な問題に踏み込んで、「裁判所の審査なしに、収容が繰り返され、理由も、期間も告げられていない」「収容の必要性が個別に評価されていない。非常に長い期間、日本に住んでいたことを考慮すべき」と批判、「事実上、入管法は無期限収容を許すもので恣意的だ」と結論づけた。

さらに作業部会は、日本が自由権規約によって負う義務に沿うためにも「入管法を見直すよう政府に要請する」とも指摘した。

この結果を受けて、22年1月、2人は裁判を起こした。