北海道を舞台にしたテレビドラマなどを手がけた脚本家の倉本聰さんが、9月18日に多臓器不全のため91歳で亡くなりました。

倉本さんは、2020年10月、HBC(北海道放送)創立70周年記念として映画監督・是枝裕和さんと対談しています。

「20歳で脚本を書く真似事を始めたとき、倉本さんの脚本が一番の教科書だった」と語る是枝監督からあふれるリスペクトを受け、倉本さんも『ドラマ』と『チック』の違いや、語尾や『間合い』に潜む人間描写の真髄など、対談では長年培った緻密な脚本術を明かしてくれました。

日本の映像界を牽引する2人の物語づくりへの情熱とこだわり。

倉本聰さんが遺した魂と言葉が、今も鮮やかに響いています。

テレビドラマには"チック"が欠かせない―

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是枝さん:局の皆さんは、きょうは"対談"と思っているかもしれませんが、個人的には僕が、倉本さんの作品をどう好きなのかを、お伝えする時間になるかもしれませんけれど…。20歳で脚本を書く真似事を始めたとき、倉本さんの脚本が一番の教科書でした。

倉本さん:恐れ入ります(笑)。

是枝さん:どう緩めて、絞って、笑わせて、ホロッとさせて、1時間のドラマを構成していくのか。非常にシャープで、見事に1時間という"時間"が描かれていると、当時、思っていました。

倉本さん:僕は、ラジオドラマから始まって、その後、映画の脚本を書いていました。東映という映画会社に、マキノ光雄さんというプロデューサーがいました。このマキノさんが、ある人のシナリオを読んで『このシナリオには、ドラマがあるが"チック"がねぇ…』と言ったそうです。ドラマチックの"ドラマ"と"チック"…この違いは何だろうと考えたんですね。それで"ドラマ"というのは物語を引っ張っていく話の筋で、一方の"チック"は、そこに付随する"部分的なエモーショナルなモノ"ではないか…と。テレビは"ドラマ"よりも、むしろ"チック"が大切なんじゃないかと思っているんです。

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倉本さん:僕は、何かにこだわる人間が好きで、そういう人間の話をすごく書きたいんです。若い頃に読んだ海外の短編小説で、一人の男が、何かの理由で社長に怒られている話がありました。その男は、怒られながらも、ジーッと社長の鼻を見ているうちに、どうしても鼻に触りたくなっちゃうんですよ。それで、ついに男は我慢できず、社長の鼻を触っちゃうという話なんだけれど、こういう心理って、面白いって感じたんです。そういうことをウンと書いていくと『この気持ち、わかる!』という想いに到達できるんじゃないかと。テレビにはいろんなお客さんがいますから、短い部分で"うーん、分かる!"という部分に、ドラマは絞っていった方がいいのではと考えるようになりました。

是枝さん:倉本さん脚本の連続ドラマ『6羽のかもめ』(1974年・フジテレビ)ですが、どれも素晴らしくて、特に好きな放送回が何話かあるんですが…。〝焼き魚の頭をどっちにする?〟というネタの回はすごい。ドラマ導入の5分だけなら分かるんですが、このネタだけで、1時間ドラマを構成することは、正直なところ、なかなか怖くてできない(笑)。

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是枝さん:でも〝食べ終わった後で魚の頭の向きを変える〟というオチも含めて、それぞれのキャラクターが、1時間のドラマの中で見事に出ているんですよね。僕たちの人生に起きる、本当に小さな出来事、小さな日常を巡って、いろいろなドラマが起きている。その辺りが"ドラマ"ではなくて"チック"だと思うんですが、そこを掘り下げるだけで、いくらでもドラマが書けることに気がつきました。

倉本さん:『北の国から'84夏』(フジテレビ)の脚本を書いたときのことです。純(吉岡秀隆)という少年が、本当は自分が火事を出したのに、友だちの正吉のせいにしてしまうんです。純は、ラーメン店で親父に『火事は、自分のせいだった』と告白するシーンなんですが、脚本を書いていて〝チックを忘れているな…〟という気がしたんです。

純が、本当のことを告白していると、ラーメン店の女性店員(伊佐山ひろ子)が『もう時間だから』と言って、純が食べている途中のラーメンの器をさげようとするんです。そのとき『子どもがまだ食っている途中でしょうがっ!』と、父親の黒板五郎(田中邦衛)が、その店員を怒鳴るシーン。実は最初の台本にはなかったんです。

このシーンを加えたことで"チック"が出ました。最初の脚本で、僕は何か物足りなさを感じていて、"待てよ…ラーメンを運んでくる店員は、どういう人物なのか?"と思ってね。それで店員の家には、子どもが2人位いて、母子家庭で…家には、腹を空かした子どもたちが待っている。早く帰らなくてはいけない。閉店時間の夜8時なのに、黒板一家という変な親子がやって来て、延々と話をしている。早く帰らなければいけないのに…とイライラ、イライラしているわけです。

そうやって店員の側から考えたら、ピッと締まるドラマになったんです。伊佐山ひろ子が演じる店員の家庭まで、視聴者は考えないだろうけれど、そこにもドラマがあって、黒板一家のドラマにちょっとだけ絡んでいる。店員のバックボーンがあるから、物語の印象的なシーンになったと思います。