「カントリー・オブ・オナー」に選ばれた背景と、ベンチャーを引き上げる文化の力
野村: それでは、今回のメインテーマである「カントリー・オブ・オナー」についてですが、なぜ今年、日本が選出されたのでしょうか。
中山: 実は3年前にも打診があったそうです。しかし当時の日本には、現在のような「オールジャパン」でコンテンツを海外へ押し出す機運や、ジェトロ(日本貿易振興機構)などによる海外展開支援の体制が十分ではありませんでした。今回は、経済産業省が推進する「IP360」といったコンテンツの海外展開支援の枠組みが整っていたこともあり、「今年は勝負をかける」という決断に至りました。
野村: 満を持しての選出だったのですね。
中山: 今回、日本が主催した招待制のオープニングディナーには約1,000人ものゲストが詰めかけ、イベント全体の規模も去年の3倍近くに拡大していました。また、作品の面でも、コンペティション部門以外を含めて合計10本の日本関連作品がノミネートされました。ストップモーション時代劇アニメの『HIDARI』や、設立4年目のベンチャー企業「NOTHING NEW」が手掛けた『我々は宇宙人』など、多様な作品が世界的な注目を集めました。
野村: 設立わずか4年の、しかも4人ほどのベンチャー企業がカンヌの「監督週間」部門に選ばれたというのは驚きです。
中山: カンヌには、新興のプレイヤーやベンチャーをグローバルに一気に引き上げる力があります。彼らは選出された途端に世界中のメディアから取材攻勢を受け、「午前中だけで15社の商談が入っています」と多忙を極めていました。一気にグローバルステージに躍り出たわけです。
野村: まさに世界への登竜門であり、ジャイアントキリングが可能な場所なのですね。
中山: 是枝裕和監督がこれほど世界的な名声を得ているのも、2018年に『万引き家族』でパルムドールを受賞した実績が極めて大きいです。地方や一国のプレイヤーが急激にグローバルな存在になるための手段は、「圧倒的な資金力」か「文化の持つ力」のいずれかしかありません。文化の力によって、莫大な資金力に対抗し、それを超えることができる。その可能性を信じる人々が、野心を持って集まる熱い場所でした。
カンヌ独自の厳格なメディア・ヒエラルキーと「星」による評価システム
中山: カンヌには世界中から4,500社ものメディアが取材に訪れるのですが、そこには厳格なヒエラルキー設計が存在します。まず、現地のホテルに毎日無料で配られる『Gala』という雑誌には、コンペティション部門の20作品に対して、12人の著名な批評家たちがそれぞれどのようなスコア(星)をつけたかがリアルタイムで一覧できるようになっています。
これを確認しながら、「この作品は評価が高いな」といった予測を立てるのですが、今回は濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』が3.1という高得点をマークしており、非常に盛り上がっていました。その一方で、取材に訪れるメディア自体も厳格に5つのランクに分けられています。
野村: メディアにもランク分けがあるのですか。
中山: トップの第1ランクには、歴史ある専門誌や毎日新聞などの伝統的な大手新聞社が位置づけられており、セキュリティやアクセスの制限において最優先されます。新興のウェブメディアなどは一番下の第5ランクに位置づけられ、上位のアワード取材などには立ち入れません。安易にすべての人を受け入れるのではなく、厳格にコントロールすることで、映画文化の頂点としての格調を保っているのです。
野村: まさにLVMHのブランド戦略やルーヴル美術館と同じで、徹底した差別化と階層化(ヒエラルキー)によって強固なブランドを構築しているのですね。














