ソニー・ピクチャーズ社長との対談の舞台裏と「クランチロール」の急成長
野村: 対談はどのように進んだのでしょうか。
中山: 実は内容は完全に一任されており、「1時間話してほしい」とだけ言われていました。私はゲームやアニメの分野には詳しいのですが、実写映画は専門領域ではなく、しかも全編英語での対談でした。さらに、ハリウッドのトップレベルになると事前の打ち合わせが直前にキャンセルになることも珍しくありません。時差の関係で夜中の12時に待機していたものの、開始10分前になって「急用でキャンセルになった」と連絡が入るような状況で、まさにぶっつけ本番のプレッシャーがありました。
野村: それは非常に緊迫した舞台裏ですね。
中山: ハリウッドにおけるサンフォード・パニッチ氏の発言は業界全体から非常に注目されています。対談の場では、最前列に記者たちがずらりと並んでいました。「Netflixをどう見ているのか」「ソニーにとって今の挑戦は何か」といった発言をすべて記事にしようと身構えており、彼としても慎重に発言を選ぶ必要がありました。その中で、彼が特に強調していたのはクランチロール(Crunchyroll)の存在です。
野村: クランチロールですか。
中山: ソニーグループは、主要な映画スタジオの中で唯一、総合的な動画配信プラットフォームを自社で展開していませんでした。他社が「Disney+」や「HBO Max」を立ち上げる中、ソニーは特定のプラットフォームに縛られず、各社と広くパートナーシップを結ぶ戦略をとっていました。しかし、ソニーが買収したアニメ特化型配信プラットフォームのクランチロールは、2020年の買収検討時には有料会員数が約300万人だったものが、先々月の発表では2,100万人にまで急成長しています。
野村: 約7倍に跳ね上がったのですね。
中山: 「すべては熱狂的なファンダム(ファンコミュニティ)から始まる」というアプローチで着実にファンを積み上げてきた結果です。ソニー・ピクチャーズにとっても、クランチロールを通じて日本のアニメを世界に届けることが大きな柱になっていると強く実感しました。また、非常に印象的だったのは、彼が「動画配信プラットフォームからは、持続的なIP(知的財産)は生まれにくい」と言い切ったことです。
その発言をジャーナリストたちが一斉に記事にしました。映画業界のトップが語る「映画館での体験が極めて重要である」という共通認識を引き出せたことは、非常に大きな意味があったと感じています。
カンヌが守り続ける「ヨーロッパ」と「ハリウッド」の境界線
野村: 配信と劇場公開のジレンマは、現在の映画業界における最大のテーマですね。
中山: パニッチさんとの対談では、例えばツインエンジンのアニメーション映画『超かぐや姫!』をめぐる「配信で300万人が視聴した後に、劇場に100万人が足を運ぶような波及効果もあり得るのではないか」という問いかけに対しても、前向きな議論ができました。実際、Netflixの共同CEOであるグレッグ・ピーターズ氏とも対談する機会があったのですが、彼も既存の映画業界や劇場公開の仕組みを活用することに肯定的な様子でした。
野村: 配信プラットフォーム側も、劇場の力を無視しているわけではないのですね。
中山: ただ、カンヌ映画祭という場は、伝統的に「フランス(欧州のアート映画)対アメリカ(ハリウッド・配信)」という非常に強い対立構造をはらんでいます。カンヌにはハリウッドの大手スタジオやアメリカ勢の存在感が薄く、彼らが配信の力で世界市場を席巻しようとするのに対し、フランス側は「我々はあくまでアート映画である」という姿勢を崩しません。上映作品の冒頭でNetflixのロゴが出たときだけは、観客から拍手が起きないという露骨な対抗意識があるほどです。
野村: 非常に分かりやすい、徹底した姿勢ですね。
中山: これほどの強い対抗意識には驚かされました。過去にはハリウッド大作がカンヌでお披露目上映された際、厳しい評価を受けてその後の興行成績に悪影響を及ぼしたという経緯もあります。そのため今回は、ディズニーやパラマウントなどの大手スタジオは参加しておらず、ユニバーサル・ピクチャーズの関係者が数人訪れていた程度で、広告も一切出していませんでした。
野村: まさに、商業的なアメリカ映画と、芸術性を重んじるヨーロッパ映画で、全く異なるエコシステムが形成されているのですね。
中山: その通りです。日本はハリウッドに対して依存しがちですが、フランスのように独自のこだわりを持ち、強い交渉力で自国の文化を守る姿勢は、日本も見習うべきだと感じました。














