商業主義に対抗する「作家性」の絶対基準とゲームチェンジャーの存在
野村: 映画がカンヌのような芸術の場で評価される際、どのような具体的な基準があるのでしょうか。
中山: 映画の芸術性を測定する絶対的な指標はありませんが、まさに「美術史における文脈(コンテクスト)」と同じです。ポピュラリティを追求するアメリカの商業映画に対抗し、独自の文化的、歴史的な価値を提示できるかどうかが問われます。12人の批評家たちは、映画史の文脈に照らし合わせて「これからの映画界はこの方向性を評価すべきだ」という意思表示や、価値観の再定義を能動的に行っています。
野村: だからこそ、全員が納得する無難な作品よりも、賛否両論を巻き起こすような尖った作品が評価されるのですね。
中山: その通りです。摩擦や議論を生まないゲームチェンジャーは存在しません。商業性とは完全に切り離された「作家性」を絶対基準とする独自のエコシステムがあるからこそ、非常にユニークでエポックメイキングな作品が世に送り出されます。今回女優賞(岡本多緒さんとヴィルジニー・エフィラさんの共同受賞)受賞を果たした濱口監督の『急に具合が悪くなる』もその好例です。上映時間は3時間に及び、学者同士の往復書簡を通じて、静かに死に至るまでの過程を描いた非常に深い内容です。
野村: 私はその原作を読んだことがあるのですが、あの極めて内省的なテキストをどのように映像作品に落とし込むのだろうかと驚きました。前作の『ドライブ・マイ・カー』もそうでしたが、非常にハードルの高い挑戦を常に行われていますね。
中山: 優れた芸術作品というのは、安易に言語化や一元的な解釈を拒み、「これは一体何だったのだろう」という心地よい問いが心に残ります。その体験そのものに大きな価値があるのだと思います。
カンヌが提示する新しい価値観と、日本コンテンツの未来
野村: カントリー・オブ・オナーに日本が選出された背景には、やはり日本に関連するカルチャー全体の盛り上がりもあったのでしょうか。
中山: そうですね。実写映画や、それに付随する文化的コンテンツへの関心も予想以上に高まっていました。例えばイギリスなどでも日本の現代小説が非常に高い人気を得ています。柚木麻子さんの『ナイルパーチの女子会』や『BUTTER』、吉田修一さんの『国宝』の映像化プロジェクトなども関心を集めていました。海外のカルチャーシーンで「日本」というキーワードが頻繁に語られる土壌ができていたことも、今回の強力な背景になっています。
野村: ゲームやアニメといった分野だけでなく、小説や実写映画といった多面的な表現領域においても、日本発の強力なストーリーが評価されているのですね。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。














