悲しみも、悔しさも、怒りも、そのまま
「地面に押し倒され、冷え切った土の感触さえも感じられない、ひん死の状態で、娘は何を見て、何を感じ、何を伝えたかったのか」「刃物に刺された痛みの中で、恐怖の中で『だれ』『悔しい』『どうして』…。それでも最後まで何かを伝えようとしていたのではないか」
その瞬間を、福島さんは今も考え続けています。
「娘を亡くしてから、私は『時が解決してくれる』という言葉を信じられなくなりました。時間は何も解決してくれません。悲しみも、悔しさも、怒りも、そのままそこに残り続けます」
それでも人は、生きていかねばなりません。夜が明けて、朝が来れば食事をし、仕事をこなす日常が続きます。つらい思いは決して消えないのに、笑う瞬間すらあります。そんな日々の中で、福島さんはふと気づきました。
「娘にとっての『夢』は、もっと違うものだったのではないか」
大切にしていた「当たり前の積み重ね」
「例えば、無事に家に帰ること。『おはよう』と声をかけること。約束を守ること。そして人の痛みに想像力を持つこと」。そんなことは、もしかしたら「夢」と呼ばないかもしれない。けれど福島さんは振り返ります。
「娘が大切にしていたのは、そうした当たり前の積み重ねでした」
娘の残した思いを、未来へつなぎたい――。福島さんは「夢を語る講演会」と題して、啓子さんのことを語りながら、生き続けることに決めました。
「この講演会は、それぞれが自分の足元を見つめ、静かに夢を語る。失ってからでなければ見えなかった夢。これは娘の物語であると同時に、ここにいるみなさん一人一人の物語でもあります」
この記事は4回連載の1回目です。
2回目は26日(火)朝に公開予定です。
※福岡県で2004~05年に、福島啓子さんを含む女性3人を殺害し、強盗殺人罪などで死刑が確定した鈴木泰徳元死刑囚は、2019年8月に刑が執行されました。














