「お菓子もね、人の生き様なんですよね。ですから、どういう生き様をするかによってお菓子とか店も変わってきますので」。

福島市で長く愛される和菓子店、『松屋清風庵』。桃色の牡丹やゴッホの名画を思わせる繊細な上生菓子は、わずか数センチの空間に生き生きとした世界を広げ、磨き上げた技術と作り手の温かい人柄で人々を魅了します。

昭和、平成、そして令和へ。4代にわたってバトンをつないできた老舗の知られざる物語に迫ります。

伝統をつなぐ一日

午前7時前、松屋清風庵の一日は始まります。4代目の菅野翔太郎さん(37歳)は、開店までの3時間が勝負だと語ります。

伝統のあんこを基に、確かな技術から生み出される上生菓子。翔太郎さんの父で3代目の嘉春さん(69歳)には、季節ごとに表現したい日本古来の花鳥風月があります。

--菅野翔太郎さん(4代目)「開店までにうちの場合、全部のお菓子揃えたいので。まあ、朝6時から9時までの3時間が結構勝負だったりするんですよね。」

その温かい目の奥には、和菓子への熱い思いが宿ります。店の味の要であるあんこには、高い品質を誇る北海道の小豆を使用。豆の状態を見極め、なるべくすぐに砂糖を入れることで香りを残すのがこだわりです。この上品な香りと柔らかい甘みは、変わることのない伝統です。

伝統のあんこを基に、確かな技術から生み出される上生菓子。翔太郎さんの父で3代目の嘉春さん(69歳)には、季節ごとに表現したい日本古来の花鳥風月があります。

--嘉春さん(3代目)「しゃれとか、日本の粋の文化ですよね。ああいうことを加えながらやってくと、いろんな楽しいお菓子ができますし、お客様と、その琴線に触れるっていうんでしょうか」

午前9時、穏やかな陽気の中で営業が始まると、客が次々と訪れます。

30年間この店に通うという女性は「福島では一番いいですよ。変わらないです、昔から」と話し、心待ちにしている人への手土産に団子を買い求めました。また、上生菓子を求めて2回目の来店だという家族は「すごい種類豊富だったんで、また行きたいってうちの嫁が言ってたんで」と、これから公園でみんなで食べると笑顔を見せます。また食べたくなる和菓子こそが、松屋清風庵の真骨頂です。

時代と共に歩んだ100年

松屋清風庵の歴史は、およそ100年前の昭和初期に初代・善三郎さんが市内に店を開いたことから始まります。当時は自ら作った羊羹や仕入れた土産用の煎餅を、土湯温泉の旅館に卸していました。

戦後の食料難の時代には、砂糖がなかなか手に入らない中で「うば玉」が作られました。あんこに砂糖をふんだんにまぶしたこの和菓子は、贅沢品だったといいます。翔太郎さんは、

--翔太郎さん(4代目)「懐かしいねって言って買いに来てくださる方もいるんで、そういった方の思いも考えると、やっぱちょっとなくすわけにはいかないかなと。」

と、作り続けることの大切さを語ります。

高度経済成長期には、2代目の善吉さんが商品開発に情熱を注ぎ、市内にあった百貨店「中合」などで菓子を販売。レシピ帳には、バターを使った和洋折衷の菓子が記されており、時代に求められた味を追求していたことがうかがえます。

善吉さんから店を継いだ3代目の嘉春さんは、自由にやらせてくれたと振り返ります。卸売りをやめ、和菓子作りに専念。作り手の人間性を磨きながら、真剣に菓子と向き合ってきました。

--翔太郎さん(4代目)「気持ちが柔らかい人が作れば、柔らかいお菓子になるのかなと。あるいは、すごい真面目な方が作れば几帳面なお菓子に出来上がってくると、そんな気はしますね。心がね、ちょっとでもほぐれるような、そんなお菓子作れたらと思うんですけども。」

「一生を捧げる価値がある仕事」 4代目の覚悟

幼い頃から和菓子がそばにありながら、店を継いでほしいと言われたことはなかったという翔太郎さん。継ぐ意志があまりなかった彼に転機が訪れたのは、高校生の時でした。

--翔太郎さん(4代目)「一人で金沢に旅行行ったときにですね、菓子処ですので、老舗のお菓子屋さんの素晴らしいお菓子なんかを目にして、和菓子は自分の人生をかける。一生を捧げる価値がある仕事なんじゃないかなって本当に思いまして」

高校卒業後、東京の専門学校と菓子店で腕を磨き、24歳でこの店に入りました。そして今月、嘉春さんは翔太郎さんに店を託しました。「自分が思ってるよりも体が動いてくれないなっていうことを実感することがあるので、お客様に迷惑かける前に」と、決断の理由を明かします。

--嘉春さん(3代目)「よくやってると思います。しっかりしてますし、安心して任せてやれる」

午後6時、菓子に思いを込めた一日の営業が終わります。翔太郎さんは店の存在についてこう語りました。

--翔太郎さん(4代目)「人生そのものだし、先代から受け継いできてるDNAが続いてるような、すごい特別な場所ですけども」

特別な場所を、いつまでも。松屋清風庵は、今日も至極の一品を追い求めます。

『ステップ』 
福島県内にて月~金曜日 夕方6時15分~放送中
(2026年4月30日放送回より)