安全な世界のために

アンソロピックと米国政府の間の対立は、単なる一企業の問題ではなく、今後のAIの発展とガバナンスの在り方を考える重要な契機である。

現時点では将来的なAIの脅威も、国際情勢の行方も不確実である以上、この対立に明確な正解は存在しない。ただし一つ言えることは、いずれの国の政府も、戦争を起こさないための努力、そして軍拡競争に陥らないための努力を最大限に払う責務を負っているという点である。その点、米国がその責務を十分に果たしているとはいいがたい。

ひょっとすると、強力なAIに関しては、個別の企業や国家による自主的な統制に委ねるのではなく、原子力と同様に、国際的な枠組みのもとで統制されるべき段階に差しかかっているのかもしれない。

アンソロピックをはじめとする先進AI企業と、AIで世界をリードする米国政府が協調し、AIの平和的な利用と統制に向けて歩みを進めていくことを願いたい。

<執筆者略歴>
久木田 水生(くきた・みなお)
名古屋大学大学院情報学研究科准教授
1973年生まれ。
京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。
専門は言語哲学、技術哲学、技術倫理、人文情報学(デジタル・ヒューマニティーズ)。
主な著書は、『麦とTwitter――情報技術がもたらすコミュニケーションの変容』(共立出版、2026年)、『AI・ロボットからの倫理学入門』(共著、名古屋大学出版会、2025年)。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。