日進月歩で能力が飛躍的にアップし続ける人工知能=AI。米国で起きた新興AI企業と国防総省との対立の背景には、進歩するAI=超知能が余りにも強大な力を持ち、人類存亡のリスクさえ抱える存在になりつつあるという実態がある。技術倫理に詳しい名古屋大学大学院情報学研究科の久木田水生准教授が解説、論考する。

一(いち)AI企業と国家安全保障の衝突

米国の新興AI企業アンソロピックと米国防総省・トランプ政権との間に対立が生じている。この対立はAI企業の掲げる倫理と、安全保障を目的とするAI利用との間に生じるジレンマを浮き彫りにしている。

アンソロピックは、OpenAI、Googleなどと並ぶAI企業で、後発ながら高性能のAIモデル「Claude」(クロード)を提供していることで高い評価を受けている。

Claudeは2025年7月以来、他社の製品に先駆けて国防総省の機密ネットワーク上で稼働していた。しかしClaudeにはアンソロピックの方針に基づく制限(致死的自律型兵器システムへの応用と大規模な市民監視への応用の禁止)が課せられていたため、国防総省はアンソロピックに対し、法的に認められる範囲の使用についてはその制限を受けない契約に転換することを要請した。

しかしアンソロピックはこの要請を拒否し、それを受けてヘグセス国防長官は2026年2月27日にアンソロピックを「サプライチェーン・リスク」として指定すると発表した。また同日、トランプ大統領はソーシャルメディア上で、アンソロピックのAIの使用を直ちに停止するよう連邦政府の全機関に指示すると述べた。

ここでいうサプライチェーン・リスクとは、「国家安全保障上の観点から重要な製品、サービス、ソフトウェア、データなどの供給網の中に、自国にとって脅威となりうる要因が介在すること」を意味する。脅威となる要因とは、例えば供給の途絶、技術や情報の流出、第三者による機能の妨害などが考えられる。例えば情報機器にバックドア(正規の手続きを経ずに第三者が外部からアクセス・操作ができるように組み込まれた仕組み)が仕掛けられ、データが盗まれたり改竄されたりするような事態である。

米国政府によってサプライチェーン上の国家安全保障リスクと指定された企業の代表的な事例として中国の通信機器メーカー、ファーウェイが挙げられる。ファーウェイは中国政府の影響下にあり、不正な情報収集や機能の妨害のリスクが懸念されたのがその理由である。

一方でアンソロピックは米国の企業であり、資本構成や技術提携の面でも、米国が警戒するべき第三者からの不当な影響は少ないと考えられる。それゆえに今回の件は米国のみならず国際社会にも大きな衝撃を与えた。