最新モデルMythosの異例の運用
安全性を重視するアンソロピックの姿勢は、また、Claudeの最新モデル「Mythos」(ミトス)に関する同社の慎重な運用においても顕著に表れている。
アンソロピックによればMythosはそれ以前のモデルよりも格段に強力で、例えばこれまで発見されていなかったOSの脆弱性を大量に発見し、その脆弱性を利用する攻撃手段も生成することができたという。
これが悪意ある人間の手に渡れば社会にとって重大な脅威になりかねない。そう考えたアンソロピックは、当面の間、Mythosを一般に公開することを控え、サイバーセキュリティやデジタルインフラを担う一部の機関・企業にのみ提供することを決定した。
先進テック企業が技術的優位をめぐってしのぎを削る中では、ともすれば強力な機能の追求が優先され、安全性や倫理性、公益といった観点が後回しにされがちである。そのような状況にあって、アンソロピックの慎重な態度は際立っている(注)。
(注)2026年4月20日配信の共同通信の記事6によれば、国防総省傘下の機関である国家安全保障局(NSA)がClaude の最新モデルのMythosを使用していると報じられている。なおNSAは2013年、NSAおよびCIAの元局員であったエドワード・スノーデンの内部告発によって、過去に米国市民を含む大規模な通信監視を行っていたことが明らかにされた機関でもある。
なぜアンソロピックは国防総省に対して譲らなかったのか
以上に述べてきたことから、アンソロピックが国防総省からの要求を受け入れられなかった理由は明らかである。アンソロピックの人々はAIがどれほど強力になりうるか、その潜在的な危険性を誰よりも身近に、切実に感じていた。
また彼らは安全性や公益を長期的かつ人類規模の広い視点で考え、そしてAIモデルを制御する安全策をモデルの内部に講じなければならないと考えていた。そのため、相手が国防総省であれ米国政府であれ、安全策を解除した上での使用は容認できるものではなかった。
一方で米国政府、国防総省から見れば、法規制によって求められる以上の機能的制約を課すことは合理性に欠けるように映り、そうした制約はAIの軍事利用に躊躇がない他国との競争において、米国の軍事的優位を損ないかねない判断だと受け止められた。そしてこの認識が国防長官や大統領がアンソロピックに対して見せた強硬な態度に表れていたのである。














