田村3兄弟末弟の友伸が6区でインパクトのある走りができるか?

澁谷監督は当初は1区も考えていた田村友伸を、6区に起用してきた。田村友佑の弟で高校卒業後に入社して3年目。九州予選は4区で区間賞を獲得し、新戦力として期待されている選手である。

「兄2人が日本のトップレベルで活躍するのは、うれしい反面、悔しい気持ちもあります。大きなモチベーションになっているのは確かです。兄2人とはまだ力の差がありますが、自分自身がやるべきことに集中して、いずれは勝てるようになりたい」

この夏には細谷、田村友佑、土井の合宿に同行し、秋に海外レースに挑戦する3人と一緒に練習した。澁谷監督は「ようやく体が変わってきて、質の高い練習に耐えられるようになりました」と成長を認めている。

5区の土井からトップで受けたタスキを受けたとき、黒崎播磨がその位置をキープできる可能性が出てきた。田村友伸が6区区間賞を取ったときには初優勝も見えてくる。

アンカー7区の中村優吾(22)は、九州予選の7区の経験が自信になったという。区間賞の大塚祥平(28、九電工・東京五輪マラソン補欠代表)には25秒差をつけられたが、古賀淳紫(26、安川電機)、土方英和(25、旭化成)、井上大仁(29、三菱重工)、今井正人(38、トヨタ自動車九州)という格上の選手ばかりのメンバーで、区間4位と健闘した。優勝テープも切った。

「上には上がいる、と痛感しましたが、自分のリズムで力は出し切ることができました。ニューイヤー駅伝でもしっかり戦えます」

中村は前回も7区で区間18位だった。順位は1つ落としただけで6位でフィニッシュ。55年ぶり入賞に貢献したが「前回は主要区間の3人で入賞したと思っています。終盤は落ちただけ。積極的な走りをして優勝したい」と、1年前とは違う展開に持ち込むつもりだ。

そして6区に田村友伸を起用できたのは、1区の小田部真也(23)の調子が上がってきたからだ。九州予選6区区間賞の長倉奨美(23)よりも状態が良く、澁谷監督が起用してきた。前回も1区で区間賞と44秒差の区間28位だった。今季加入したシトニック・キプロノ(21)は、前回大会では2区区間2位だった選手(当時の所属は小森コーポレーション)。30秒以内の差で2区につなげば、1、2区が終了してトップと20秒以内の差で3区の田村友佑につなぐことができるのではないか。

こうして優勝が狙える区間エントリーができたのは、マラソンで世界を狙う細谷が駅伝でもエース区間の区間賞を取る選手に成長したからだ。田村友佑はスピードを生かせる3区に、土井は持久力やロードの強さを生かせる5区に、それぞれ意識を集中して強化ができた。3人以外の選手も「1人で淡々と走れる」という中村など、自身の特徴に合った区間でのメンバー入りを目標にできた。

主要区間の選手が欠場するとチーム力は大きく落ちるが、大学のトップ選手を毎年採用できるチーム以外としては、この強化方法と戦い方がベストの方法になる。

「決まり手は1つ。4区でトップに立つことです」(澁谷監督)
 
だから選手だけでなくスタッフも含めたチーム全員が、その1点に向かって集中できる。黒崎播磨の強さはそこにある。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は細谷選手