■今年のキーワードはかわいいだけじゃない「PRETTY」

――中村氏の2022年のキーワードは「我慢できないほどPRETTY」。これはどういう意味か。

日本経済新聞社 中村直文氏:
3年間ずっと我慢して、多少まだコロナはあるわけなのですが、それでももう生活を取り戻したいという気持ちが爆発した。「かわいい」というのは癒されますし、かわいいい欲は無限です。

――「PRETTY」にはわけがある。

日本経済新聞社 中村直文氏:
「P」はプレミアムです。節約志向でモノが売れなくなってきたのですが、人はいいものがほしい。ヤクルト1000は少し高めですが、効果があるということであればお金を出す。ディズニーのホテルにしてもちょっと高いですが楽しめる。プレミアム感に関しては割とお金は出します。「RE」は回帰性です。元に戻る状態のことを言いますが、映画の「トップガン」などいろいろなものが戻ってきたと思います。「T」は「タイパ」。「Y」は円で、コストパフォーマンスということです。

「我慢できないほどPRETTY」の現場を取材した。ライザップが運営する無人営業のジム「ちょこざっぷ」は入館から5秒でスタートが売りで、24時間いつでもトレーニングできるという「タイパ」を実現したサービスだ。セルフエステや脱毛などトレーニング以外のサービスが利用できるのも人気の理由で(※店舗によって異なります)、9月のサービス開始からわずか3か月で店舗数200、会員数10万人を突破した。

RIZAPグループ広報部 金原由季氏:
世の中のトレンドとしてタイムパフォーマンスという言葉がよく言われていると思うのですが、いかにスキマ時間を有効的に使うかが皆様の要望とマッチしたのも(ヒットの)要因ではないかと思います。

カレーや油そばといったダイエット中などに我慢しがちなメニューだが、日清食品の「完全メシ」は33種類の栄養素をバランスよく簡単に取れるようにしたところ、爆発的なヒット商品となった。

日清食品 ビヨンドフード事業部 ブランドマネージャー 金子大介氏:
約5か月間で500万食、秒数に換算すると3秒に1個売れています。スパイスや旨味素材をうまく使うことで、栄養素が持つ独特の苦味やえぐみを抑えています。米を炊くときに栄養素と一緒に炊くことで、米本来の美味しさは保ちながらしっかりと栄養素が取れるような設計にしています。

プリティーの「Y」、円つまり価格で話題となったのが中国発のファッションブランド「SHEIN(シーイン)」だ。販売はウェブサイトかアプリのみだが、商品の実物を見られる常設店が東京・原宿にオープンすると、初日だけで4000人が訪れた。シーインでは最初に販売する商品数を1アイテムあたり100個程度にしている。その後の売れ行きをAIで分析し、追加販売するか判断することで売れ残りを最小化し、驚きの低価格を実現している。

SHEIN マーケティングマネージャー 石井つかさ氏:
ポイントは3つあって、1つ目が少量生産であること、2つ目が生産量を最適化していること、そして3つ目が企画から発売までの期間を超短期化していることです。

特別感のプレミアムや喜びのプレジャーを表すプリティの「P」は、旅のワクワク感とお得感からヒットしたのが運任せで行き先が決まる「ガチャ旅」だ。ピーチ航空は2022年9月から大阪を皮切りに全国各地で1回5千円のカプセル型自動販売機の旅くじを販売。カプセルの中には行き先が書かれた紙と航空券が購入できるピーチポイントなどが入っており、累計販売個数は3万個を突破した。

最後に紹介するのがプリティ、かわいいを代表する「ちいかわ」だ。SNS発の漫画のキャラクターで、「なんか小さくてかわいいやつ」、通称「ちいかわ」と仲間たちが繰り広げるほのぼのとした世界観が子供に人気だ。一方で、生活感が溢れるシュールなコメントが大人にも受け、今年の4月頃から人気に火がついた。東京・原宿のキデイランドでは、ぬいぐるみやクッションなど500種類以上の「ちいかわ」グッズを販売しており、今や店の売り上げ全体の15%を占めるという。

プリティーのキーワードでヒット商品を分類した。

――「タイパ」のながら聴きイヤホンは面白い。

日本経済新聞社 中村直文氏:
ソニーの人が言っていたのですが、リアルとネットの世界が一緒にできるということです。(両者を)つなげるという意識で作ったということですね。確かに聴きながら人の話も聞ける。そこで繋がりが持てるという不思議な世界だなと思います。

―ちょこざっぷはライザップのコンセプトと正反対だ。

日本経済新聞社 中村直文氏:
ライザップの社長にブランドを毀損するのではないかと聞いたのですが、ここまで全然違うと毀損のしようがないみたいですね。うまい具合に併存しているということです。

――「Y」で言うと、原料高で100円ショップがなかなか作れなくなってきている。その中で300円ショップが出てきているのだが、100円のものを300円で売っても客は来ない。ここに工夫が集まっているわけか。

日本経済新聞社 中村直文氏:
そうですね。やはり100円以上の価値は作れるということですし、今まで500円のものが300円で買えるということで付加価値感はあります。

――シーインはウルトラファストファッションと言われているが、どう理解すればいいのか。

日本経済新聞社 中村直文氏:
今までファストファッションは企画してから発売まで2週間と言われていたのですが、それをさらに短縮してきた。AIをどんどん使っているわけです。いろいろなライフスタイルをキャッチしてすぐに商品化していく。大量生産ではないのです。少数大量陳列型と言いますか、新しい時代の売り方だと思います。中国製なのですが、中国の匂いを消して日本や欧米で売っています。無国籍性を売りにしているので、消費者は何だろうこれと興味を持つ。