「これ以上、行政と司法が翻弄してはならない」

モハメドさんは最高裁に上告した。その結論がどうなろうと、地裁、高裁と2度にわたり裁判所が難民であると判断した以上、入管はまず難民認定をすべきだ。

ただそうなると、難民条約には、難民がもはや難民ではなくなる条件を定めた「終止条項」があるので、政権が代わった、いまのシリア情勢が、この条項に該当するのかどうかが次の焦点となってくる。その際に考慮しなければならないのは、以下の点だ。

UNHCRの難民認定基準ハンドブックは「難民の地位を頻繁に見直すことは、国際保護が提供しようと本来意図している難民の安心感を損なうものであって、原則として行われるべきではない」と警告している。
また、2018年12月、東京高裁はスリランカ人の難民認定をめぐる訴訟で、「終止条項」に該当するかどうかを判断するには「根本的、安定的かつ永続的に、迫害を受ける恐れが消滅したことが客観的にかつ立証可能な方法で確かめられた」場合と述べている。

モハメドさんは、アサド政権のみならず、現在の暫定政権に就いている勢力側からも、かつて迫害を受けてきた。報道によれば、国内では少数宗派への弾圧などの混乱も伝えられている。このことを考えれば、いまのシリアで「根本的、安定的かつ永続的に、迫害を受ける恐れが消滅した」とはとても言えないし、「終止条項」を安易に適用できるはずはない。

上記のスリランカ人の訴訟の代理人で、全国難民弁護団連絡会議代表の渡辺彰悟弁護士は、高裁判決を強く批判する。

「あまりの形式論で言葉もない。1審と同じように高裁は、入管の判断ミスだとしてモハメドさんを難民と認めた。であるならば、たとえ入管当局がまだ難民とは認めていなくても、彼が難民であることを前提に『終止条項』が適用されるのかどうかを検討すべきだ。アサド政権が崩壊しても、当然、いまのシリアの状況は『根本的、安定的かつ永続的に迫害の恐れが消滅した』とは言えないのだから、彼は依然として難民だ。判決は難民認定を義務付けるように命じなければならなかった」

そのうえで、次のように述べた。

「これではモハメドさんは難民であると勝訴したのに本人にとって不利益、かつ入管当局に有利な判断となってしまう。高裁は、自ら難民と認定したことを無にするに等しい。これ以上、日本の行政と司法によってモハメドさんが翻弄されることがあってはならない」