白杖と音――日常を支える「感覚の使い分け」

日常生活の安全を守る上で欠かせない存在として、ぐっちさんは白杖を挙げる。白杖は、進む先に障害物がないかを確かめるためだけの道具ではない。地面の質感、段差の深さ、杖が触れた瞬間に返ってくる音の反響――そこから周囲の環境を立体的に読み取るための、大切な“相棒”だという。

「白杖からは、本当にたくさんの情報が伝わってきます。ただ安全を確認するための物というより、自分の感覚を広げてくれる存在ですね」と、ぐっちさんは話す。

ハチさんもまた、白杖の使用を前提としながら、「最初に働かせるのは聴覚」だと語る。外に出れば、乗り物や人の音が風景の輪郭を作る。その音の重なりから、今どんな場所にいるのか、どの方向に注意すべきかを判断していく。信号を渡る際も、乗り物の流れを耳で確かめながら、一歩一歩進んでいくのだ。