独立ガバナンスへの移行と「緊張感」のあるカルチャー作り

野村:では、こうした構造的な弱点を克服するにはどうすればよいのでしょうか。

村上:一つの解決策は、ある程度の規模になった段階で、利害関係のない独立社外取締役を中心としたガバナンス体制へ移行することです。例えばスマートHR社のように、初期のVCが取締役から外れ、独立した専門家が過半数を占めるような形です。独立した立場の人であれば、自身の評判を守るためにも、怪しい点があれば厳しく切り込むインセンティブが働きます。

野村:専門家を入れることで、チェック機能を働かせるわけですね。

村上:そしてもう一つ、本質的に重要なのは「カルチャー」です。起業家は往々にして、耳の痛いことを言う「うるさい株主」を敬遠しがちです。しかし、イエスマンだけで周りを固めてしまうと、今回のように不正の温床になりかねません。

「同じ船に乗る」ということは、馴れ合うことではありません。命を預け合う船乗り同士のように、お互いに厳しいことを言い合える緊張感を持つべきです。

自分事として捉え、エコシステムの自浄作用を

野村:最後に、今回の事件から私たちが学ぶべき最大の教訓は何でしょうか。

村上:ステークホルダー全員が、自分たちの在り方を見直すことです。起業家は自分にとって耳の痛いことを言ってくれる人をあえて仲間に引き入れること。投資家や関係者は、「乗りかかった船」であっても是々非々で議論できる関係性を築くこと。

他所で起きた事件として他人事にするのではなく、自分たちも加担してしまう可能性がある構造の中にいると自覚し、日々の行動やカルチャーを変えていくこと。それこそが、こうした事件を撲滅するための唯一の道だと考えています。

<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。