救出された少女の社会復帰 必要なのは心の回復
長谷川さんがいま、最も力を入れているのは、人身売買の被害者たちの社会復帰だ。

インドの「レスキュー・ファンデーション」が運営する少女たちの保護施設では、教育の機会を奪われてきた少女たちに読み書きや算数などを教えているほか、美容や縫製の技術を学ぶ職業訓練を行っている。
施設では、何年にもわたって保護生活を送る女性たちもいる。

ムスカンさん(仮名)
「両親がいなかったり、家に帰りたくなかったり、事情を抱えた人たちが暮らしています」
ネパール出身のムスカンさん(仮名・29歳)。15歳の時にインドに連れてこられ、売春宿で働かされてきた。救出されたのは20歳のとき。それ以降、保護施設で集団生活を送っている。
ムスカンさん(仮名)
「私は5歳で父を亡くし、母はその後、別の男性と再婚しました。2人は私が14歳のとき、結婚相手を見つけてきました。結婚は嫌でしたが、私は学校に通うという条件で、仕方なく親の言うことに従いました」
法律で禁じられている“児童婚”を強いられた、ムスカンさん。学校に行く約束も反故にされ、家を飛び出した。
そこで、ブローカーに「いい仕事がある」と連れてこられたのが、インドの売春宿だった。

ムスカンさん
「実際は違うのに、売春宿のオーナーたちからは“18歳で自分の意思で働いていると言え”と、命令されていました」
「何度も逃げようとしましたが、すぐに警察に捕まり、店に送り返されました。警察が、売春宿から賄賂を受け取っていたのです」
救出された直後のムスカンさんは、感情のコントロールが利かず、周囲に怒りや不安をぶつけてばかりいたという。
しかし、カウンセリングを重ね、数年前から年下の少女たちの世話役を担い、ダンスを教えるリーダーとしての活動を始めたことで、次第に自信を取り戻すようになった。
かつての自分と同じ道を辿った少女たちを前に、こう語る。

ムスカンさん
「ここに来たときは毎日、泣いていました。でも今は、他の子たちが、私のようになりたいと言ってくれます。きっとなれます。誰よりも自分を誇るべきです」
30年にわたり、人身売買の被害者を支援してきた長谷川さん。深く傷ついた少女たちの社会復帰のためには、心の回復こそが必要不可欠だと実感している。

長谷川さん
「当面の目標としては、やっぱりまだ女の子たちの心の回復という部分では十分ではないと思うので、そこに力を注いでいきたい」
「やっぱり、何らかの形で、女の子たちが社会に戻っていく姿を見ると、すごく嬉しいです。騙されて売られていく子どもがいなくなるまで、やらなきゃいけないと思っています」














