量刑不当―懲役1年6か月、執行猶予3年の原判決の量刑は重過ぎるか否か

事件現場となった福岡市博多区のアパート

弁護側の論旨
弁護人は、仮にグエット被告が有罪であったとしても、グエット被告を懲役1年6か月、執行猶予3年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり、懲役1年未満の執行猶予判決を言い渡すべきであると主張した。

具体的には次の点を指摘した。

・原判決は、犯行に至る経緯やグエット被告による意思決定の過程の検討が不十分である

・法益侵害の程度は極めて軽微である

・グエット被告は、犯行後に男児の葬送を実施している・懲役1年6か月が科された場合、グエット被告には、在留資格の更新が許可されない危険性及び技能実習を継続できない危険性がある

福岡高裁の判断
福岡高裁は、原判決の指摘する量刑事情の認定・評価は相当なものであり、その量刑が重過ぎて不当であるとはいえないと判断した。

各論点について、福岡高裁は次のように述べた。

・犯行に至る経緯等について
「原判決は、犯行に至る経緯やグエット被告による意思決定の過程には同情できるところがある旨明示して量刑上考慮に容れており、その宣告刑に照らしても、考慮の程度が十分でないとはいえない」

・法益侵害の程度について
「その態様等に照らし、死者に対する一般的な感情及び敬けん感情を著しく害する悪質な犯行といえるとの原判決の評価に誤りはなく、犯行による法益侵害が極めて軽微であるなどとはいえない」

・被告人による葬送及び在留資格の更新等について
「いずれも一般情状であって、量刑上考慮に容れるとしても限度があり、量刑を大きく左右する事情とはなり得ない」

また、福岡高裁は、
「当審における事実取調べの結果によれば、原判決後、グエット被告は技能実習生として稼働するとともに、弁護人を通じて男児の遺骨をベトナムの教会に預けたことなどが認められる」
とした。

しかしながら「これらの事情を考慮に容れても、原判決の量刑を変更するには至らない」と判断した。

福岡高裁は、量刑不当の論旨について「理由がない」と結論付けた。