12日から始まった知床沖の観光船沈没事故の裁判。運航会社の社長側は無罪を主張しました。
石黒拓海記者
「報道陣に対して一礼をして釧路地裁へと入っていきます、ようやくはじまる刑事裁判で桂田被告は何を語るのでしょうか」

知床沖で観光船が沈没した事故から3年半。運航会社の社長・桂田精一被告(62)の刑事責任を問う裁判が始まりました。

知床遊覧船の元従業員
「本当のこと言ってほしい、真摯に向き合ってほしい」
傍聴人
「自ら謝罪して責任果たしてほしい」
2022年4月、まだ冷たい知床の海。26人の乗客乗員を乗せたまま、観光船「KAZUⅠ(カズ・ワン)」は、沈没しました。

この日は、会社の運航基準を上回る15メートルの風、高さ2メートルの波が予想されていました。

の運輸安全委員会は、不具合のあったハッチのふたが開いて海水が流れ込み、KAZUⅠが沈没したと結論付けています。
運航会社の社長で、安全統括管理者でもあった桂田被告は、悪天候が予想され、船長に出航の中止や引き返す指示を出すべきにもかかわらずこれを怠り、乗客乗員を死亡させた業務上過失致死の罪に問われています。

事故後の記者会見で、出港や航行は「船長の判断だ」と繰り返した桂田被告。
その後も十分な説明と謝罪がないことに、息子と元妻がいまだ行方不明の男性は、憤りを隠せません。

家族(10日)
「事件のことだけでも苦しいのに、桂田被告のまるで反省していない態度や言動などで、より一層私たちは苦しめられている」
そして、12日釧路地裁で開かれた初公判。桂田被告は3年前と、同じ主張を繰り返しました。

法廷での桂田被告
「船長から荒れる前に引き返すと聞き、それなら大丈夫と思って出港を認めた。
しかし事故が起きた」
「私には起訴状の罪が成立するかわからない」
「経営者として事故を防げなかったことを重く受け止め、裁判の中で話すべきことを誠実に説明する」

最大の争点は、桂田被告が「KAZUⅠ」が沈没する結果を、予見できたかどうか。
検察は冒頭陳述で「当日は注意報で運航基準を上回る風や波が予報されていて、『春先は天気が急変しやすい』海域の特性も踏まえれば、乗客を死傷させる事故が起きることは予見できた」と指摘。
一方の弁護側は、「午前中の風や波は運航基準を超えていなかった」と主張した上で、「船長が独断で午前中にウトロ漁港に戻ってこられないコースに変更し事故が起きたため、桂田被告に事故を予見することはできなかった」と無罪を訴えました。
乗客家族に「お詫び」を述べたものの、罪は認めなかった桂田被告。
家族たちは、やりきれない思いを抱えたままです。

裁判を傍聴した遺族
「裁判中もずっと彼の方、目を見ていましたけど、一度も目が合うことはなかったです本当に本当に桂田が許せないです」
初公判は午後4時半ごろに終わり、次回は来月10日に行われます。
◆釧路地裁で取材した三栗谷皓我記者

午後5時ごろまで続いた裁判。午前10時からの長丁場ということもあり、ご家族の方も疲れた様子で法廷を後にしました」
法廷に姿を現した桂田被告は、まず、被害者参加人として検察側の席に座っていた乗客の家族に深々と頭を下げました。
話す口調は淡々としていて、検察側の証拠調べの際には時折目をつむる様子などが見られました。
一方、参加した複数の乗客家族は亡くなった家族の写真を持参し入廷する人、行方不明の息子のスーツを着て臨む人の姿がありました。
乗客家族の方々がまっすぐに桂田被告を見つめ、ひとつひとつの言葉に耳を傾けている姿が印象に残っています。
◆提示された証拠について(三栗谷記者)

検察からの証拠で、沈没直前に乗客家族の携帯からかけられた音声が流れました。なるべく冷静にとりしきろうとする船長の声でした。
その音声を耳にして、すすり泣く家族の声が廷内に響きました。26人が帰らぬ人となった沈没事故。失われた命の重みを感じました。














