愛らしい猫たちが、乳がん闘病の日々を語りかけます。富山市に住むよしこさん(55)は、自身の乳がん治療の経験を猫のイラストで描き、SNSで発信しています。描くことで「不安な心を整理できた」と話すよしこさん。闘病を通して気づいたのは「生きる力」と「前を向く勇気」です。

よしこさんは、去年の夏、仰向けになっていたときに胸のしこりに気づきました。

乳腺外科で検査を受けた結果、悪性の腫瘍があると告げられました。両親をがんで亡くしたこともあり、頭をよぎったのは「死」でした。

よしこさん
「宣告されたのは12月。世の中はクリスマスや年末の雰囲気で浮き足立っているのに、私の心の中は“がん”のことでいっぱいでした。全身に転移しているんじゃないか、春の息子の卒業式に出られないんじゃないか、桜も見られないのかなって…」

恐怖と絶望で頭が真っ白になったといいます。

ことし2月には、右の乳房を全摘出する手術を受けました。

「出産より痛かった。こんな経験を忘れたくない」との思いから、入院中のベッドで、思いつくままに絵を描きはじめました。

描き留めたノートに、彼女の分身として登場したのが愛猫「まるちゃん」でした。

よしこさんは、乳がんとの闘いを“猫”という存在に託して描きます。

「胸はセクシャルな象徴でもある。だから猫に置き換えることで、いやらしさを出すことなく、多くの人に見てもらえると思ったんです」

乳がんの宣告に感じた絶望。検査への恐怖、手術前の不安、術後の痛み、続く治療と薬の副作用、
心の揺れ。猫たちは、時に不安に、時に前向きに、よしこさんの心そのものとなります。

やがて、よしこさんの作品は、医師の目に留まり、11月に開催される「乳がん市民公開講座」のパンフレットに採用されることが決まりました。

「私の経験が、誰かの役に立てるなんて思ってもみなかった」と笑顔を見せます。

現在は再発防止のため、抗がん剤とホルモン剤を服用し続けながら、来年4月に乳房再建の手術を受ける予定です。

よしこさん
「今はシリコンだけじゃなく、自分の体のどこかの肉を取って再建するやり方や、脂肪を培養して脂肪注入をして膨らませていくっていうやり方もある。再建にはいろんな方法があることを知って安心しました。あたたかい胸が戻ってくるなんて、夢のようです」

闘病生活をイラストにしたからこそ、気づけた思いです。

よしこさん
「乳がんは誰にでも起こりうる身近な病気。
でも、早く見つければ助かるんです」

一筋縄ではいかない病気。治療の中では気持ちも揺れ動きます。でも、そのどの自分も受け止めながら前に進んでいくことが大切だと猫たちが教えてくれました。

よしこさんは今、猫たちのイラストを絵本にまとめたいと考えています。

「病気になっても、自分らしく生きられる」

その優しいメッセージを、これからも届けていきます。